狙った譯ではないのですけど、「アイウエオ」に續いて今回は「ABCDEFG」、――クリスティ「ABC」から赤川「ABCD」と來れば次は順當に「ABCDE」となる筈が、今回はGまでを並べてのゴージャスなもの。とはいえ、本作も「アイウエオ」以上にミッシング・リンクとは關係がありません。
連作という意味では、アルファベットをAからGまで並べる意味づけはなされているものの、本作の破天荒ぶりはそこにはなくて、寧ろ「探偵」とワトソンとなるべき登場人物の關係の奇天烈ぶりでありまして、あらすじにもこのあたりがマッタク言及されているゆえ、本作を愉しむにはやはり伏せておいた方がいいのもかしれません。
ということで、このヘンテコな設定については限りなくボカしながら話を進めていきますけど、まずもってジャケ帶に「少女探偵、登場」と書いてあるとはいえ、實をいえば本當に探偵を務めるのがトンデモなものでありまして、和モノの作品でもすでに先例があるとはいえ、この少女探偵が失ってしまったものと引き替えに特殊な能力を獲得、この「探偵」の推理を拝聴して事件を解決、というのが連作短編を貫く大凡の結構ながら、全体として見るとこの少女探偵を取り卷く災難がまた尋常でないことが、本作をさらに異樣なものに見せています。
何だか異樣異樣、といかにもヘンテコな物語であることを強調してしまっているのですけど、全体のトーンはジャケ帶にもある通り「ポシティブ&マイペース」な「少女探偵」が困難にメゲずに事件に立ち向かっていくというものであるとはいえ、そもそも探偵事務所にアルバイトで務めている彼女が卷きこまれてしまう事件のその發端が尋常ではありません。
彼女とエッチした事務所の同僚が爆死すれば、次には彼女をアルバイトから正社員へと昇格させた所長が變死してしまったりと、さげまんどころか死に神のような彼女のキャラ設定が物語に快活爽快な風格を求めるミステリーYA!らしくないところにも違和感がありまくりで、最初のうちは彼女によくした「いい人」が盡く謎の變死を遂げていき、そのたびに彼女に保險金が入ってくる、という展開に、最後の最後には彼女が現代本格の定番である「操り」の首謀者だったりするのでは、なんて妙なゲスの勘ぐりをしてしまったものの、さすがにそこまでイヤっぽい物語ではなかったのにはチと安心。
収録作は、首無し死体の動機に首切断の理由をシッカリと絡めた謎解きでしめくくる「Aは安楽椅子のA」、主人公の娘っ子といいカンジになった男が不可解な爆死を遂げてしまう「Bは爆弾のB」、續いて彼女を正社員に昇格させた親切心が仇となって所長が變死してしまう「Cは地下室のC」。
一家族を慘殺した人物の無罪をはらすべく少女探偵が奔走する「Dは電気椅子のD」、ベタ過ぎる英語ネタに苦笑しながらも、車で壁に激突という不可解な死に樣にバカミス的トリックが冴える「Eは英語のE」、イヤ男の愛人が不感症になった理由にトンデモな論理が光る「Fは不感症のF」、無重力状態で殺されたとしか思えない變死に気功術までを織り交ぜた奇天烈ぶりが愉しい「Gは銀河のG」の全七話。
殆どのコロシの動機に保險金狙いを絡めてあるところなど、安易というか非常に割り切った設定が見られるところも本連作短編集の特徴ながら、「安楽椅子のA」などは、そこから首無し死体の首搜し、という趣向に合わせた謎解きが光ります。ただそのあまりにストレートな伏線の開示方法ゆえに、殆どの讀者は推理が始まる前にこの眞相を喝破してしまうやもしれません。
「爆弾のB」は、上にも述べた通りに、娘っ子によくしたばかりに爆死してしまった男の死の眞相を推理していくというものながら、ここでも保險金狙いが事件の動機にシッカリと据えられている設定にはもう違和感がありまくり。さらには第三話の「地下室のC」で、彼女によくしてあげた所長までもがご臨終となると、さすがにこの娘っ子の死に神のとしてのたぐいまれなる資質に何だか仕掛けがあるのではないかなア、なんてマニアとしてはゲスの勘ぐりをしてしまいます。
「電気椅子のD」は、執行が間近に迫っている死刑囚を救うべく事件の真相をさぐり當てるという設定で、何たが寿行センセ的な物語を想像してしまうものの、この設定の強引さに苦笑しつつも讀みすすめていくと、探偵である娘っ子はこれまた件の特殊な能力によってアッサリと眞相を喝破してしまうというイージーさにチと苦笑。
娘っ子の死に神ぶり、さらにはこの特殊能力に謎解きをゆだねてしまう設定など、眞面目に讀んでいたらタマらない雰囲気がムンムンに感じられてきたゆえ、正直に告白すると、第四話あたりからはダメミス的な「讀み」に軌道修正して(爆)、後半へと進んだのですけど、猿でも分かる英語ネタを添えた「Eは英語のE」のあとに續く「Fは不感症のF」は、不感症になってしまった女を元に戻してもらいたい、という謎から、その不感症へと到った理由がある種の狂人の論理的な結構によって繙かれるという物語で、収録作の中では一番のお氣に入り。
ある種の妄想ともとられかねない推理の流れに、不感症となった少女が殘していたあるものからその理由を間接的に「語らせる」ことで、眞相へと辿り着く伏線を構築しているところが秀逸で、少女の特殊能力と謎解きへの流れ、さらにはその背景に隱された眞相と、そのすべてが最後には巧みな構図を描き出す幕引きが美しい傑作でしょう。
物語が進むにつれて、探偵事務所には新しい人材が娘っ子のところに集まってくるのですけど、その人物達が主人公と同樣、何かが欠けていて、それらを皆で補い合うというところは連作短編の設定としてもうまく仕上げてあるとはいえ、個人的には、この連作が進むにつれて、娘っ子に關わると死亡フラグ立ち、という法則が発動するのではないか、――と、主人公たる少女探偵と關わることになった人物たちの今後が大いに心配になってしまうのでありました。