何でも折り込みによると今回の第三話にて大日本帝国編は小休止、舞台はこのあと一気に中東に向かうとのことなんですけど、そうとなればこの第三話にはひとつの区切りとして清々しい幕引きがあるのかと思っていたら、最凶ともいえる終わり方を見せてくれてもう、頭がグルグルですよ。
昨晩寝る前に気軽な気持ちでこれを讀んでしまったものですから、本話に登場する憎っくきゲス巡査や義勇隊のクズ野郎に對する怒りでスッカリ頭に血が上ってしまい、昨晩はグッスリ眠ることが出來ませんでした(爆)。
「ママがこわい」的な叙情と恐怖を添えた風格に、二十一世紀本格を逆算した技法が感じられる怪力光線砲という奇天烈なアイテムが異彩を放っていた第二話に比較すると、本作はとにかく敗戦間近な日本風土の混迷と、権威を笠に着て威張り散らし弱き者を虐げるバカ日本人の負の部分をイッパイにブチ込んだ風格が際だってい、上にも述べた通りに、中盤に登場して主人公の少年家族をイビりまくる義勇隊のクズ野郎と、職権乱用で非常事態には俺様こそが正義とばかりにやりたい放題の助平巡査のイヤっぽさは、もしかしたら御大小説史上、最凶かもしれません。
道子をイビりまくる藤倉兄弟や、近作では「UFO大通り」に登場した野郎なども、本作の義勇隊や巡査に比べればまだまだおとなしい方で、特に影でコソコソと職権を濫用三昧のスケベ巡査の極悪ぶりは、物語世界の外側にいるこちらが殺してやりたいほどで、どうか終盤ではこの巡査のクズ野郎が皆に嬲り殺しにされますようにと、海を隔てたロサンゼルスに向かって三拝九拝したくなるほどの凶悪さです。
最初の方は、第二話を引き継ぐかたちで、美人なのにアバズレになってしまったママをいたわる少年の視点から、次第に敗戦が濃厚になっていく世相も交えて二人の苦しい生活を描いてきます。しかしB29の来襲によって学校が燃えてしまったところから物語は一轉、少年家族にトンでもない不幸が降りかかっていきます。
学校に來なかったことを指弾された少年が義勇隊に「頭が高い!」と恫喝され、皆の前で指彈されるあたりはまあ、予想出來たものの、ここへ性格が激変してしまったママが登場したところからからはもう大變。
義勇隊のゲス野郎は、メリケン野郎と通じているだの、もんぺをはいていないのは非国民というふうにムチャクチャな屁理屈を喋り散らし、子供たちの前でママを裸にしてしまう、――ってこのあたりではまだ「ハ、ハレンチ学園?!」みたいなノリで讀んでいられたのですけど、ここへさらにスケベ巡査が登場することによって物語がドンドン悪い方向へと落ちていく惡魔主義的展開は壯絶過ぎます。
しかしそんな家族の身に降りかかる不幸の中、腐りきった日本の土地がB29の襲撃によって焦土へと化していくシーンの詩的な美しさと、秘密兵器火龍を駆ってメリケン野郎を迎撃せんとする伯父のエピソードが激しく胸を打ちます。さらに戦争時代の混迷とただただそれに翻弄され、威張り散らし弱い者虐めへと流れるゲスな日本人たちと、黒田さんや伯父さんたちを対蹠して描き出すことによって讀者の心を激しく揺さぶってみせる結構など、とにかく「色々な意味」で興奮、コーフンする、という點では第三話の中では本作が一番ではないでしょうか。
最後に語り手が口にする「自己を複製する能力」という言葉、そしてこのあと、ゲスな巡査に促されて行うであろうコトを想像するにつれ、もうこの後の決定的にダウナーであろう展開が気になって気になって仕方がありません。
そして物語の終わりの頁に添えられた士郎氏の畫がまた相当のものでありまして、ここで大日本帝国編を小休止とさせるところから、この後の別世界を舞台にした物語とどう連關していくのかというところも気になるし、――という譯で、ことこの第三話に關しては、皆様は心して取りかかるべし、ということで。
それと本作の折り込み、「島田荘司、『Classical Fantasy Within』を語る」は本物語のファン、そして御大のファンは必讀でしょう。特にこの大河ノベルズはどうやら本格ミステリじゃなさそうだし、――なんてかんじで尻込みしていた御大のファンにこそ是非とも目を通していただきたいと思いますよ。現段階で確実にいえることは、この「CFW」は、本格ミステリという枠組みそのものを大きく變えてしまう可能性を秘めている、ということでしょうか。十月の再開を心して待ちたいと思います。