何ともいえない餘韻が殘る小説。二人の姉弟探偵が辿り着いた眞相というのは決して良いものではなかったのだけども、それでもこの夏休みの探偵ごっこを経たことによって変わってしまった二人が、ふと自分がたちが辿ってきた過去を振り返ったときを思うと、何というか、言葉ではうまく説明できない気持になります。
最近讀んだ氏の最新作、「模像殺人事件」と同樣、物語は淡々と進んでいきます。ただ、「模像殺人事件」と大きく違うのは、主人公となる姉弟がいきいきとしていること。この二人のキャラって、創元推理「日常の謎」派に特有のものだと思うのだけども、典雅な文章とも相まって、自分は日影丈吉を思い出しました。とにかくこの作者は文章はうまい。というか、本當にこの佐々木氏って、昭和四十二年生まれなんですか?文章だけ読んだらどうしたってそんなふうには思えないんですけど……。
トリックと呼べるのかどうか、一応犯行にはそれらしい「技」が使われますが、この小説の本旨はその犯行方法を暴くことにあるのではなく、「あの事件は何だったのか」、そして「その背後には何があったのか」という點にあります。このあたりは「模像殺人事件」とも同じといえば同じですけど、うーん、……自分はこの眞相を見破ることは出來ませんでした。確かにチャンと書いてありますよね。それも非常にさりげなく。このさりげなく描かれた事実を組み合わせていけば確かにそういうふうに推理することは可能だった、とは思うのですけども、完全に作者にやられてしまいました。
何かこの物語は、ときおり思い出しては、また讀み返したくなってしまう、……そんな本になりそうです。大傑作と手放しで推薦できるミステリではないのですけども、小説としては極上で、「模像殺人事件」よりも大くの讀者に訴える力を持った物語だと思います。
繭の夏
繭の夏佐々木 俊介著東京創元社 (2001.6)通常2-3日以内に発送します。オンライン書店ビーケーワンで詳細を見る
過去に未解決の殺人事件が存在したかもしれない。あたしたちはその謎を解く
はじめましてこんにちは。TBさせていただきました
何だか凄くもったいないなーというお話でした。
文章は上手いし、青春の雰囲気も出ているし、トリックも悪くないし…と
そこそこ良いのにやはり犯人の動機がまずかったのでしょうか。
あと轡田くんや、彼らの恋人なんかの描写もちょっと尻切れとんぼな感じもしました。
次は評価の高いらしい模像殺人事件を読んでみようかと思っています。
常磐さん、こんにちは。
鮎川哲也賞って、時々派手なトリックやロジックよりも本作や迫光の作品のように獨特の雰囲気で見せる作品が選ばれたりします。自分としては動機も含めて後半に展開されるエグさは結構気に入っています。確かにずっと物語を引っ張ってきた獨特の雰囲気とは乖離しているんですけど、それも含めて偏愛したくなる作品というか。
模像はよりミステリとして結構が際だっている作品ですけど、讀みかえすとしたら本作でしょうかねえ。どちらも非常に、非常に地味なんですけど惡くないと思います。