初期の連城三紀彦の代表作ともいえる本作は、人間の狂氣と犯罪を扱った傑作。ミステリとしても秀逸だけども、何より狂人の幻想幻覺だと思っていたことが、最後に至って本當にあった出來事だということが推理によってあきらかにされるところが秀逸。
自分が持っているのは新潮文庫版なのですが、その裏表紙には、
「デパートで夫と逢引しているもうひとりの自分を目撃した人妻。自殺しようと飛び込んだトラックが消えてしまった画家。一週間前に自分が交通事故死したことを妻から知らされた葬儀屋。妻が別人にすり替わっていることに気がついた外科医。四つの別々の場所で起こった四つの事件がからみあい、ひとつに結ばれていく。浮かび上がる過去の殺人事件。巧緻なトリックで描くミステリー」
とあり、これ讀んだだけで、何だか島田莊司っぽくて良いじゃんと思うでしょ?着地點は島田莊司みたいに明快ではないのですけど、ちょっとサイコホラーっぽい雰圍氣といい舞台装置といい、数ある連城作品の長編の中でもこの作品はかなりツボでした。とにかく抽斗が多い氏のこと、このような人間の狂氣と内面を扱った作品はこれのみなので、この後の連城作品を読み慣れていた人がこの長編を手に取ったらきっと拒絶反応を起こすことでしょう。最近の長編のように、畳みかけるようなドンデン返しで讀者を翻弄するような作風ではなく、どちらかというと物語は淡々と進んでいくので、この何処か歪んだ小説世界に浸ることがことできないとちょっと辛いかもしれません。
長編それぞれに獨特の風格がある連城作品なのでどれが一番優れているかという比較自体不毛なのですけど、それでもミステリ好きにとって本作はかなり上位に位置するに違いなく、讀んで損はしないと思います。