ついに始まった御大の大河ノベルズ第一話。何故か頭ン中では「戰記物ファンタジー」なんていう先入觀を持っていたものですから、ジャケ裏のあらすじで昭和二十年というリアル世界を舞台にした作品であることを知ってまず吃驚、さらには内容を讀み進めていくにつれ、色々な意味で非常に期待させてくれる一册に仕上がっています。
本格ミステリであれば雜誌の連載であってもスルーして、單行本としてリリースされた時にイッキ讀みをするような自分としては、果たして本作をどうしたものか迷ってしまったのですけど、講談社BOXというやや特異なかたちでの刊行にもまたひとつの意図が込められているのではないかと思い、取りかかってみた次第です。実際にははじめの方だけチラと目を通してみたら一氣に引き込まれてしまったので、結局一册イッキに讀了してしまった譯ですが(苦笑)。
物語は昭和二十年、いよいよ日本の敗戦も濃厚になってきた時代のお話で、主人公は超絶美人のお母さんを持ったボーイ。このボーイには伯父さんがいて、この人物が今回のタイトルにもなっている「秋水」なるロケット戰鬪機の研究開發を行っている研究者。で、本卷ではこの伯父さんとともに、ボーイのママにベタ惚れのパイロットも交えて物語が展開されていきます。
まずもって冒頭から語り手が過去を回想する結構になっていること、さらにジャケ裏のあらすじの最後に「しかしその現実は、奇妙に、そして確実にねじれていく……」なんて書かれてあるところから、悲劇的な展開が予想できてしまってどうにも落ち着かないのですけど、戦争時代ということに絡めて本巻でも早速、主要登場人物の一人になるかと思われていた某人がご臨終、というかなり悲劇的な展開で飛ばしていきます。
着目すべきは、本作が講談社BOXの一册であるというところから、本作を本格ミステリとして讀むべきなのか、それともそうした結構を持たない一般の小説として讀むべきかというところを敢えて曖昧にぼかしてみせているところでありまして、これがもし本格ミステリであれば、当然、「幻想的な謎」と「高度に構築された論理性」から構成された結構を頭におきつつ、何が「謎」として提示されているのか、そしてそれらはどのような「論理性」によって解明されていくのかとそのあたりを期待しながら進めていくのがオーソドックスな「讀み」でしょう。
しかし本作では講談社BOXの、それを大河ノベルズという連載にも似た形式でのリリースゆえ、この物語には本格ミステリの枠組を持ちながら仕掛けによって最終的には解明される「謎」は存在するのか、とか、そもそもそのような「仕掛け」は存在するのか等等、作品の結構に絡めた手の内が明かされていないゆえ、こちらとしてはこの物語の中に描かれた「事件」を本格ミステリ的な「謎」として汲み取っていくべきなのか、――そのあたりにおいて作者である御大の手の内を探りつつ讀み進めていこうと思っています。
具体的な例を挙げると、例えば物語の中盤で今後の主要登場人物の一人に成りうるかと期待されていた人物が「溶解人間」か、はたまた「魔鬼雨」か、みたいな死に樣を晒してご臨終、という展開が見られるのですけども、もし本作があからさまに「本格ミステリ」という形式によってリリースされていたのであれば、ここではやはり顏の無い死体を期待してしまうのが本格マニアの性、でしょう。
あるいは主人公であり語り手でもあるボーイの母親の出自にも何やら曰くがありげだし、このあたりを一般の小説に見られるような伏線と解するべきなのか、それともこれもまた本格ミステリ的な「謎」としてすくい取っておくべきなのか、――個人的にはこのママの出自と、本卷の後半に見られる「これってニコラ・テスラ?」みたいな第二話へと繋がる「怪力光線砲」に絡めて、もしもボーイに美人なママが二人いたら、みたいな妄想が悲劇的に結びついていくのでは、なんてかんじでもう期待と不安でイッパイなんですけど、果たして本作はこの後、本格ミステリとしての結構を表していくのか、第二話を愉しみに待ちたいと思います。