これはまた何とも古風な「探偵小説」ですな。陸の孤島に棲んでいる一族。包帯で顏を隱した男の突然の歸還。外部の者がその屋敷を訪れ、事件に卷き込まれる。その人物が殘した手記。あらゆるアイテムが古風な探偵小説を想起させる不思議な小説であります。
さらに文體も何というか、中井英夫や横溝正史を髣髴とさせる枯れたもので、舞台が現代であることが不思議なくらい。そんな文體で淡々と描かれた物語は起伏に缺けるけども、文章自體は讀みやすく、安心して作者の仕掛けを堪能することができます。
事件に卷き込まれた部外者が手記を殘していて、それをもとに「いったい何があったのか?」というのを推理していくのですけども、驚くべき眞相はそのまたさらに向こうにあって、……という趣向なのですが、うーん、何となくこんなかんじではないかな、と思っていたらアタリでした。だって、この屋敷の住人たちがどうにも奇妙だったもので、その違和感を探っていくうちに、もしかしてこれって……と思った次第です。
同じ作者の「繭の夏」もすでに購入濟なので、近々挑戦してみる予定。しかしこのデビュー作と本作との間にある十年のあいだ、作者が何をしていたのかにちょっと興味があります。