自分は発売当初、單行本で讀んだクチなのですが、この装丁が結構洒落ていて好きでした。さて、この作品ですが、島田莊司ファンに対するリトマス試験紙であります。この作品で「島田莊司、大丈夫か、おい?」と感じた讀者も多かったとか多くなかったとか、……という話はおいといて、とにかく今までとはちょっと作風が変わってきたな、ということは確かで、タイトルも漢字で二文字と素っ氣なく、また暗闇坂のようなケレン味のある際だったトリックもない。更にはノッケから御手洗と大学教授との衒學的な議論が延々と續き、非現實的なおとぎ話を讀まされることになる。
でも京極夏彦を通過してきた讀者だったら、最初の議論のところなどは案外スンナリと讀めてしまうかもしれないのではないでしょうか。それとこの幻想的なおとぎ話に關しては讀んでいくにつれ、何となくこの人物がどんな人間か、というのは察しがついてしまいました。ここ最近、……島田莊司のこの作品以降の國産ミステリを讀んでいる目の肥えた讀者であれば、このあたりは簡單に見破ってしまうのではないでしょうかねえ。
この作品で不氣味なのは、やはりマンションの隱された階の描写ではないでしょうか。エレベータが開いて、薄闇のなかに遠くの部屋から音樂が聞こえてくる、……ちょっと考えただけでもぞっとします、個人的には。
水晶のピラミッドや暗闇坂と比較して小粒だな、と思ってしまうのは、やはり物語が國内の、それも湘南だけで完結してしまっていて、冒險譚的な部分がほかの作品と比べても少ないからでしょう。「ネジ式」は二十一世紀版の「眩暈」だと個人的には感じているのですが、意外性という點と後半の盛り上がりは「ネジ式」の方が少しばかり上回っているかとは思いますが、この物語に登場するマンションの描写や石岡氏の活躍(?)が讀める本書の方が個人的には好み。