戸隠という伝奇小説としてはあまりに魅力的な土地を舞台に据えているゆえ、「黄金伝説」レベルの作品カモ、なんて大期待で讀み始めたのが大間違い、ノッケから内輪ネタにも轉びかねない、というか巻末の清水義範氏の解説を讀んでマンマ内輪ネタをうまく料理した内容であったことが分かってしまったところがアレながら、とにかく作家半村良をモデルにした作家のアシスタントが神々の戰いに卷き込まれるというのが物語のおおよその結構です。
前半は突然目の前に現れた美人といいカンジになって、半村風人情噺というよりは、こちらの背中がムズムズしてくるようなメロドラマが大展開されてしまうところでまたまた面食らってしまうのですけど、それでも普通人の日常生活から巧みに神話の世界へと流れていく仕掛けはやはり見事。
舞台を戸隠に移してからは、主人公のアシスタント君の記憶の底に眠っていた古代神のキャラが覚醒、神々の戰いへと雪崩れ込み物語はいよいよ盛り上がりを見せてい、……くかと思いきや、この神々の戰いというのが、双方、遮光器土偶と埴輪を使って戰いに挑むいうことでありますから、これを現代フウに言えば、要するに神レベルで紙相撲かはたまたロボコンで盛り上がるような展開は伝説シリーズとしてはアンマリです。
自らが体と体をぶつけ合って血まみれの戰いに挑む譯ではありませんから、何だか陣地に立って相手の出方を窺っている神々も暢氣なもので、その戦略たるや相手が人形をつくっている窯をブチ壊してしまえばいい、というある意味ルール違反も厭わないところは神というより犯罪者。
こんなかんじで、時折古代神へと覚醒した主人公とヒロインのちょっとしたお惚氣も絡めて神々の戰いが描かれていく譯ですけど、何もしろ主人公の名前がキララとあれば、やはり最近では竹本健治のアレを思い浮かべてしまうのはミステリマニアとしては致し方なく、讀んでいる間も終始この名前が出てくるたびに「御主人さまあ」なんて甲高い女声が頭の中に響いてしまったのも本作をめいっぱいに愉しめなかった理由の一つといえるカモしれません。
流石に神様の紙相撲で最後まで押しまくるのはマズいと作者も悟ったのか、最後の最後はガチンコ勝負に挑むものの、ここでも「まっすぐうしろに穗先を向けていた槍を、通り過ぎて少ししてから、ひょいと左へ動かしたのである」などというフェイント攻撃で決着してしまうし、最後は「ポキッ、と嫌な音がしたかと思うと、次の瞬間石馬はぐらりと右に傾いて倒れ」てジ・エンド。
「ひょい」だの「ポキッ」だのという脱力の擬音がクライマックスで用いられるというところにも本作のほのぼのテイストが感じられ、神々の戰いと聞いて「邪神世界」の派手派手しさをイメージしてしまうと肩すかしを喰らってしまいます。
そんな次第でありますから、「伝説」シリーズだからといって過度な期待はせず、前半では業界の内輪話をネタにした人情噺の風格を愉しみ、後半は戰いのハードさよりは、日本の神々のほのぼのとしたキャラと戰術の妙を堪能するのが吉、でしょう。