ある意味直球のホラーともいえる作風ながら、そこは本格ミステリとしての拔群の冴えを見せる三津田氏のこと、怪異の謎を解き明かしていく中盤からの展開や、最後のヤマ場で細やかな推理を披露してみせたりと本格の愉しみ處をさりげなく添えているところが素晴らしい。
今回ばかりは定番のメタ的な仕掛けも控えめに、十二歳の男の子が祖母と二人でとある家に引っ越してくると、實はその家というのが譯アリ物件で、さらには町全体には何やらただならぬ雰圍氣があって、……という話。
前半は、例によってひたひたひたっ……とかぎぃ、ぎぃ、ぎぃ……といったチープ感溢れるオノマトペを驅使して、ネットリじっとりとイヤ感を高めていく描寫も冴えまくり、冒頭からヌボーっと姿を現しては意味不明の言葉をブツブツと呟く爺キャラなども添えて、怪しい雰圍氣もイッパイです。
個人的には主人公のボーイが娘っ子と一緒に曰くありの物件を過去を洗い出していく中盤からの展開がステキで、譯あり物件と來れば絶体に陰慘な殺人事件がつきものということで、過去の新聞記事を探していく過程でついにその事件にブチ當たるのですけど、ここで明らかにされる眞相のエグさから、男の子が因業と對峙する展開へと雪崩れ込む後半部はホラー映畫の見ているような盛り上がりを見せていきます。
いよいよ最後に主人公を襲う正体が明かされるところからは、少年が華麗な推理で陷穽を突いてみせたりと、怪異の正体を探っていくというホラーでは定番の謎解きとはまた違った本格ミステリの風格が添えられているところが面白い。
三津田作品では定番のメタ的趣向や視點に仕掛けを凝らした風格こそ見られないものの、敢えてメタを封印して、作中の事件と怪異を竝べながら、最後には怪異がリアルの事件へと姿を變えてみせるところなどに、ホラーとミステリの融合を目指す三津田氏の趣向が大いに感じられて大滿足。
作中で語られる事件は凄まじいものなのですけども、實際にボーイが体驗する怪異や事件はチョット地味なところが物足りないものの、怪異に對して後半にこんなアプローチが待っていたというのはマッタクの予想外で、本格ミステリ的な驚きとはやや趣を異にするとはいえ、ちょっとしたサプライズも用意されているところも秀逸です。
文庫書き下ろしという體裁ゆえか、地味にして小粒という印象があるのですけど、三津田氏のファンであれば、やはり愉しめるのではないでしょうか。また「スラッシャー 廃園の殺人」にも匹敵する文章の讀みやすさにも注目で、やはり作品の雰圍氣によって文体を巧みに使い分けてみせるのが三津田流なんだなア、とその職人ぶりに感心至極。
しかしジャケ裏の著者近影で初めて三津田氏ってこんな人だったんだ、ということを今回知ったのですけど、自分は何故か飛鳥昭雄みたいな、グラサンの怪しいオッサンをイメージしていたので、そのあまりの普通ぶりにちょっと吃驚してしまったのでありました。