「独白するユニバーサル横メルカトル」で何だかイッキにメジャー街道へと躍り出ることになってしまった平山氏ですけど、一般人の嗜好を無視してグロとキワモノにハジけまくった描寫で疾走する作風はそのままに、「SINKER」にも通じる、異端者の悲哀と慟哭を際だたせた作品も収録、個人的には平山小説の初心者には「メルカトル」よりこちらをオススメしたい、という高品質の傑作選です。
収録作は、ニセモノ昭和テイストから滲み出す日常の歪みから、異世界のシステムが明らかにされるビルドゥング・ロマンスの序章「テロルの創世」、顔崩れの醜男、吸血女、モジモジデブの暗黒三角形「Necksucker Blues」、狼人の因果と血の宿命の物語「けだもの」インテリ快樂殺人者の因果な宿命が凄まじい幕引きへと突き進む傑作「枷」、ダメ男の壮絶な戀物語が絶望の中の希望へと昇華される「それでもおまえは俺のハニー」、因果屋敷に越してきたタクシー運転手の悪夢「或る彼岸の接近」、殺人ロードを突き進むキ印二人の因果地獄「ミサイルマン」の全七編。
「Necksucker Blues」や「けだもの」など、古典的な怪物ネタを扱いつつも、平山氏らしい描寫が光る作品もステキながら、今回イチオシなのは、快樂殺人者が自らに課した枷が最後に悲哀と凄まじいラストを召喚する「枷」でしょうか。
コロシによって訪れる怪異に取り憑かれた快樂殺人者という設定や、おぞましいコロシの描寫も含めて、平山氏の小説に期待している要素がイッパイに詰まった作風が何よりも素晴らしく、女を見れば殺したくなるという主人公がコロシの欲求をセーブする為にマイルールをぶちあげるものの、最後にはそれが因果な展開へと雪崩れ込む結構など、全てを手放しで贊美したくなる傑作でしょう。
男二人に女の三角關係というベタ過ぎる戀愛物語を、平山氏が手掛けるとこんなにも鬼畜なお話になってしまうのか、と思わず目を剥いてしまう作品が「Necksucker Blues」で、二人の男を競走させてジラしまくるというオンナのイヤらしさがめいっぱいに描かれているところや、惚れるネタが古典のアレだというところもまた秀逸。
ダメ男の戀物語という點では、頭のネジが外れていそうな男のラブラブなモノローグで語られる「それでもおまえは俺のハニー」も同様で、こちらは狂った世界が描かれながらも、最後まで異端者二人の純愛が貫かれているところが素晴らしい。
部屋を埋め盡くした黒電話やオンナの異形ぶりに普通の本讀みはドン引きしてしまうようなお話とはいえ、物語の後半にさりげなく添えられた怪異などの小技を驅使して、ゲス野郎の奈落と戀愛贊歌を併置して幕引きとする結構など、これまた見所の多い逸品でしょう。
「或る彼岸の接近」は、オーソドックスな幽霊屋敷譚を踏襲しながらも、語り手のダメっぷりと、ひたひたと押し寄せる妻の狂気がドンヨリとした物語の雰圍氣をよりいっそう盛り上げているところがマル。淡々と、ある種の予定調和をまじえて主人公が悪い方、悪い方へと流れていく展開にちょっと平山氏らしくないなア、なんて思っていると、最後には異界に足を踏み入れてしまった登場人物たちの非業に、さりげなく救いを添えたラストで締めくくります。
平山氏といえばグロと鬼畜、みたいな印象を持っている讀者にとっては、この絶望の中の希望ともいえる印象的な幕引きはやや意外に思われるかもしれません。しかし実話怪談集の中にときおり見せる「いい話」などを知っているファンにしてみれば、この悲哀と慟哭の中に暗黒の希望を添えてみせる風格は當に平山節。鬼畜一邊倒だけではない、氏の本當の持ち味は、グロの向こうに垣間見える、人間を見つめる優しい視線である、――なんて普通の評論家だったら締め括ってみせるのでしょうけど、「ミサイルマン」のアマリにアンマリな殺人描寫や鬼畜テイスト溢れるハシャギぶりを見てしまっては、そんな言葉に説得力もマッタクなし。
頭のイカれた男二人がゲスなオンナを拾っては殘虐なコロシ方で遊びまくるというネタに、殺したデブ女の因果が襲いかかるという物語で、個人的には後半にフラリと登場するキ印男の造詣が完全にツボ。人間のイヤなところ、汚らしいところを描かせたら天下一品という平山氏の筆が冴え渡り、鬼畜なユーモアと奈落を交えた風格、そしてこれまたある種の爽快を添えた幕引きも素敵な一編でしょう。
「テロルの創世」は、この物語の世界観だけでも長編に出來るネタに、強力な圧縮をくわえて物語の背景をスッ飛ばしたまま、これから始まる物語の序章を語るという短篇に仕上げた一編です。ニセモノめいた昭和の風景に、殘酷世界の鬼ルールが次第に明らかにされていく展開や、主人公とはみ出し者の組み合わせなど、これまたファンタジーを思い浮かべる人物配置など、グロまみれの平山ワールドではやや異端の風格を漂わせているものの、この絶望の中の希望を添えたラストはやはり平山氏。「Necksucker Blues」や「或る彼岸の接近」の幕引きと比較しつつ、平山氏が描こうとしている物語世界の實相をあれこれと想像してみるのも一興でしょう。
短篇集ながらも一編の讀後感はそれぞれ壓倒的で、個人的には大滿足。また讀みやすさという點で見た場合、「メルカトル」より寧ろこちらを方を初心者にお勧めした方が良いのではないかなア、なんて印象を持ちました。
ジャケ帯に中原昌也氏曰く「病的に乾いた笑いと、破けた糞袋……現代最狂ハードボイルド作家の放つ異臭を嗅げ!」なんてあるから普通の本讀みは本屋に平積みにされているのを見ただけで確実にひいてしまうと思うのですけど、個人的にこういったグロとゲロとの深奧に垣間見える、平山氏ならではの人間を見つめる優しい視線(オエッ)に注目するとより愉しめるのではないかな、と思います。オススメでしょう。