ミステリ仕立ての小説というくくりがなくても愉しめる短篇がこの文庫に収録されている「滝」。芥川賞の候補にもなったそうですけども、堅い文章がちょっと慣れるまで讀みにくいのがちょっとアレなんですけど、リズムに乗れれば結構いけてしまうのが奧泉光の小説です。硬質な文章、そして少ない會話文という構成。また勲という名前からちょっと三島のあの小説を想起してしまうのは自分だけですかねえ。
文庫後ろの解説には「奧日光連山で山岳清修業に挑む5人の若者の、肉体と精神の限界にたたされる厳しい試練と、組織を巡る昏い罠を描く」とあるのだけども、登場人物の内面を深く描くことは敢えて避けて、山のなかの象徴的な描写を執拗に繰り返すことによって、若者たちの不安な気持ちを盛り上げていきます。まあ、純文學的手法といえばそうなのかもしれませんけども、まだこのあたりでは幻想と現実が反転するような過激な作風は現れていません。結構普通の小説です。
これは奧泉光の小説、それも短篇中編にいえることなのだけども、どうも終わり方が素っ氣ない、というか、何か意味があるのかな、と勘ぐってもそれがよく分からない。自分が莫迦なのか、それともそういうものなのか……