『出口なし』を角川ホラー文庫版ではなく、その前に単行本で読了済みの自分としては、まあ、とりあえず読んでみるかというかんじで手に取ってみました。結論からいうと、処女作と同じいい意味でも悪い意味でも、……といっても『出口なし』を壁本認定してしまった御仁には後者の方が強く感じられるのではないかと推察されるものの、「そういうもの」として読めばなかなか愉しめる一冊でありました。
物語は、簡単にまとめると、同窓会で出会った昔の仲間が不可解な死を遂げていき、どうやらそこにはある呪いだか祟りがあるようで、……という話。『出口なし』が『CUBE』などの、「あのテ」のホラー映画へのリスペクトだとすると、本作は『リング』。とはいえ、『リング』のように読者を戦慄せしめる恐ろしさは希薄で、さらには貞子のような幽霊ヒロインも恐ろしくも哀しい逸話は封印。さらには影の薄いヒロインや青春小説としても結構アレな風格も含めて、Z級の腐臭を仄かに漂わせた展開は、マジメ一辺倒の小説しか読まないよッという方には噴飯者ながら、好き者には逆の意味でタマりません。
例によってお約束のように次々と人死にがあるのですが、事故としか思えない不審死から心中めいた屍体とドミノ倒しのように発生するなかで、とある土地の曰くにたどり着くあたりが『リング』的ではあるのですが、呪いだか祟りだかというやや学術的蘊蓄に踏み込んではみたものの、ここでドップリとまじめな見識をブチかましていては、Z級の展開が失速するとばかりに、そのあたりは華麗にスルーして、では誰が呪いだか祟りだかの仕掛け人なのかという犯人捜しへとシフトしていくサスペンスフルな流れがダリオ流。
次に死ぬ人間の前に、前走者がヌボーっと現れて、次にヤられるのはアンタだよ、なんて恨み言をいっては消えていくという描写は、想像するになかなか恐ろしいものがあるのですが、何しろ呪われた連中がテニス同好会で初々しい恋愛模様をも織り交ぜリア充どもという設定でありますから、今ひとつ、ネクラな読者にはその怖さも琴線に触れないというか何というか、……そうしたもどかしさはあるものの、お約束のルーチンワークによってたたみかけるように次に殺されるのは誰なのかナ、という展開は「こうした」作風には大いに期待されているところでもあり、安心して読み進めていけるところが二重丸。
とはいえ、あまりにアッサリと、……というか、伝承をさらっとなぞったあと、いきなり犯人の名前が明かされる淡泊さにはミステリ読み的にかなり吃驚の展開で、もう少しジラしても良かったんじゃないノ、と推察されるものの、これもまた謎解きとかッ、そんなつまらないものをグダクダやっているからッ、ミステリはダメなんだよッ、というダリオ式の雄叫びにかき消され、みるみるうちに残りはあと二人というラストへと突き進んでいきます。
実際のところ、最後に残るのは話の設定からしてこの人しかありえないでしょ、という、これまた期待を裏切らない流れで幕となり、最後のオチもこれまたホラー映画であればッ、このだめ押しが必要なんだよッ、というダリオ式アジテートに導かれるまま、気がついたら最後の一ページに行き着いていたというシメ方は惹句にある通りに「ジェットコースター青春ホラー」。ホラー小説好きというよりは、展開がリンクをダリオ流にサンプリングしたという内容ゆえ、むしろホラー映画ファンの方がニヤニヤしながら愉しめるカモしれません。角川ホラー文庫好きというよりは、ホラー映画マニアの方に、ということで。