「赤いヤッケの男」に続く山の霊異記第二弾。前作と同様、怖いもの、ほろりとくるものと硬軟取り混ぜた一作ながら、今回はかなりパワーアップしており、非常に愉しむことができました。
最初を飾る「顔なし地蔵」は、山登りの最中に見つけてしまった怪しい地蔵群が何やら訳アリで、……という定番の話から人死にへと繋がっていくのですが、山の怪談だからこそ不意打ちのかたちで訪れる最後のオチが最大限の効果をあげているという痛快な一篇。
収録作中、個人的に一番怖かったのは続く「青いテント」で、これまた例によって山ン中でテントを張って寝ていたら妙なものが出てきて、……という展開ながら、今回はこの「出てくる」ものの違和感がキモ。山の中にマッタクそぐわないこのものの異形な姿が朝になって明らかにされるのですが、あまりに似つかわしくないそのかたちにゾッとなってしまうという一篇で、いったい何でこんなものが、というところを宙づりにして恐怖度をあげるという怪談物語ならではの骨法が光る秀作です。
ちょっとイイ話、というのでは「目」が愉しめました。山登りの最中、あるものを見たあと眼痛に襲われるという話なのですが、こういうちょっと不思議な話というのに山という舞台は合うなア、と感じた次第。今回は、こういう怖い、あるいは泣ける怪談だけではなく、フシギ系の話も結構収録されていて、「山ヤ気質」も話の雰囲気からいつお化けが出てくるかと思っていたらちょっと予想外の落ち方をする洒落た一篇です。安曇氏ならではの、どこか飄々とした文体がこうしたフシギ系の物語と絶妙なマッチングを見せているところにも注目でしょう。
で、後半に収録されている恒例の、山ン中のいい話泣ける話ですが、今回は最後の「櫛」がそれで、山中で出くわしたある幽霊の姿をやや内省的な語り手に託して活写しているところがいい。語り手も述べている通り、実際に出会ったらけっこう怖い情景なわけですが、どこか他人のように客観的にその景色を眺めながら、恐怖を払拭させた語りが最後にいい話へと昇華される結構も秀逸です。
実をいうと、この「櫛」は是非とも「あとがきにかえて――金縛り」とセットで読んでいただきたい一篇でありまして、「櫛」の幽霊の姿からいい話だなーとちょっと感動したあと、すぐさまこの余韻を痛快にブッたぎるような「金縛り」のオチが素晴らしい。「赤いヤッケの男」には感じられなかった、作者ならでは稚気が感じられる構成もいい、――というわけで前作「赤いヤッケ」が愉しめた人は勿論、自分のように前作はチョット物足りなかったカモ……と御仁もなかなかいけると思います。オススメ、でしょう。