予告しておきながらサボっていた「FHM」のインタビューの前編をお送りします。この雑誌自体はミステリとはアンマリ関係がなく、どちらかというと往年の「GORO」や最近だと「Sabra」などに近い、グラビア、流行モノ、ファッション、車などを取り上げた男性誌です。逆に言うと、そうした視点から御大へインタビューを試みているゆえ、我々のミステリファンとはまた違った視点からの質問もあったりするので、そのあたりを愉しんでいただければと思います。
日本ミステリーの巨匠、来る! 我々はなぜ「密室」なるものにかくも惹かれるのか? そして、何と! 師曰く、吉敷竹史を演じてもらいたい俳優は、ウィル・スミスだって!
皆はあなたのことを「ゴッド・オブ・ミステリー」と呼びますが、あなたにとって推理小説の神といえば誰でしょうか?私にとって、ミステリー作家は皆、神様ですからね。ただどうしても、というのであれば、やはりポーとコナン・ドイルでしょう。特にドイルのホームズものは子供の頃から好きでしたから。
ミステリーというのは読者との知恵比べだと思うのですが、ミステリー作家というのは皆さん頭が良いものなんでしょうか?
うん……そうでもないと思いますよ。ミステリーといってもいろいろあるわけです。より恋愛小説に近いものであったり、冒険小説のようであったりというように。ですから科学者のように頭が良くなければいけないというものでもありません。科学者が素晴らしい論文が書けるといっても、では面白い小説が書けるかというと、そういうわけではありませんしね。論文を書くことと小説を書くことは同じではありませんけれど、ただ「本格ミステリー」は他のミステリーと比較すれば、より論文を書く能力は必要とされます。
だとすると、本格ミステリーは書くのが難しい?
難しいというわけではありません。ただ、本格ミステリーはより謎解きに注力して書く必要がありますし、ですから恋愛小説を好きな人が本格ミステリーを読むと、何でこんなにお堅いんだろう、つまらないと感じたりするかもしれませんね。
ミステリーを書くために頭を使うというのは、老化の防止に繋がりますかね?
ははは。それは私には判りませんね。ただこれまでのところ、ミステリー作家がぼけたという話は聞いたことがありませんし、皆さんもこれから二十年間、私のことを見ていてくださって、もし私がそうならなかったら、これは役に立つということになりますかね。
ではしっかり見守ってますよ! またあなたは「トリックの神」とも呼ばれていますよね。こんなにたくさんのトリックを生み出すことができるのですから、子供時代だってかしこくて、何か突拍子もないことを思いついたりとか、そんなこともあったりしたのでは?
中学生の時、一枚の地図をつくったことがあるんです。いかにもお宝が隠されているような、そんなかんじの地図をでっちあげてみたんですけれど、それをつくっている間、クラスメートには、わざとその樣子をこっそり覗き見させていたんですね。そうやって注意を惹きつけておいたわけです。そうしておいて、その地図の中の、宝が隠されているという場所にこっそり穴を掘っておいて、そこに誰かが落ちればと考えたわけですが……
それで、どうだったんです? まんまとクラスメートを騙すことができたんですか?
わたしはこっそり隠れて、クラスメートたちが、地図で示した場所にやってくるのを今かと待ちかまえていてね。彼らがやってきて……しかし、まさかその前の晩の雨で穴の中に水が溜まっているとは思いもしませんでね、彼らは全身ずぶ濡れで、そんな樣子を見ていると、どうにも申し訳ないという気持ちになってしまって。それからはそんな悪戯をすることもなくなったわけですけれど、そこであなたが先ほど言っていた話に戻るのですが、悪戯といってもまあ、それくらいですよ。
あなたにとって、一番の名探偵といえば誰でしょう?
アインシュタインですね。
それはどうしてですか? 何か彼がかかわった事件でも?
皆さんが読まれている本格ミステリーの型というのは、ほとんどがヴァン・ダインの時代に編み出されたものなんです。ただそこからアラン・ポーの時代まで遡ってみれば、当時の名探偵というのは同時に優れた科学者でもあったことが判ります。ですから「科学」というのは科学者が自然世界における様々な謎を解き明かすことであると思うんですね。ですから科学者というのは本来探求心が旺盛なものなのです。
そうでしたか! ところでなぜ名探偵のそばには必ず助手がいるんでしょう? たとえばホームズにはワトソンがいますし、あなたの小説では御手洗には石岡和己がいるわけで……
それは名探偵の頭というのは、一般人とは違うからなんですね。ですから自分の頭で考えて答えを見いだした時には、一般人のレベルである助手がそばにいないと、名探偵の謎解きをみんなに説き聞かせることができないわけです。
確かに! きちんと噛み砕いて説明してくれないと私たちには何が何やら、ですよね……
日本でもイギリスでもそうですが、名コンビというものがありますよね。二人のやりとりを見せるというのは、多くの芸術表現において人を惹きつけるものなのです。一人だけだど何となく面白くない、しかしこれが二人になるとユーモアが出てくる。ですからミステリーというのは堅苦しいものですから、そうすることによってユーモアを加えているのです。一人だけだとあれですが、これが二人になるとなかかなうまくいくものなんですよ。
では、どうして名探偵の隣にいる助手はみんな男性なんでしょう? 艶っぽい美女では駄目なんですかね?
それはもう女性読者のためですよ(笑)。綺麗でかしこい女性の助手よりも、女性の読者は顏も普通でユーモアのある男性が助手で、名探偵とコンビを組んでいるある方が良いんじゃないですかね(続く)。