二月のあまりの忙しさに三月に入るや体調不良でブッ倒れていたゆえ、今日は簡単に。「超怖」のベストセレクションの本作、実際はほとんどが既讀ながら、やはり鮮烈な印象を残したものは何度讀んでも素晴らしく、なかなか堪能しました。
とはいえ、こうしてベストセレクションを讀み通してみると、いうなれば昨今の實話怪談が持っている結構のパターンというものも見えてくる譯で、例えば引っ越し早々どうにも調子か悪いんでベットで寝ているとグスグスに腐った死体がヌボーッと現れて卒倒し、調べてみたらその部屋で過去にコロシがあって、……みたいな「因果噺」に「怨念」「祟り」のコンボみたいな作品だとどうにも醒めてしまうというか、このあたりは本格ミステリにも通じるものがあって、個人的にはいくら密室が出て来ても「どうせ何かのトリックを使ったんだろ」みたいなかんじでどうにも興ざめしているところがちょっとアレ。
そうなると、出てくる幽霊のディテールをもっとももっと気持悪いものにしたりといったところへと流れるか、怪異の現出に工夫を凝らしてみるか、といったアプローチが考えられる譯ですけども、そうした技巧があからさまに透けて見えるものよりも、個人的には寧ろそうした「怨念」「祟り」の因果とは離れたところで怪異が立ち現れる物語が斷然好みで、そういう意味では冒頭の「穴ふたつ」は短いながらもかなり強烈。
お地藏様にある御願いをした語り手が運動會の日にとある怪異を体驗するのですけども、その御願いの「結果」として現れる怪異よりも、それに合わせるかたちで語り手を襲ったあることの意味のなさが妙に怖い。この場合、怖いというよりはどうにも坐りが悪いというか、その怪異にハッキリとした答えを見いだすことの出来ないゆえの氣持ち惡さが後に残ります。
また「新耳袋」を髣髴とさせる不思議譚では、「蟻沼」がいい。この場合は何とも説明のつかない不可思議さと、その樣態の幻想味が強烈です。
そのほか印象に残ったのは、藤子Aセンセ的なブラックさと怖さを混淆させた「貧者の祈り」や、背中の刺青の薄気味悪さと弱者の怨念が恐ろしい「タラコ」、平山氏の樹海キャンプの経験からそのディテールが非常にいい味を出している「干瓢」、悪夢を描いた繪畫のごとき情景が強烈な「合わせ鏡」、最後に出てくる怪異の恐ろしさという点ではピカイチの「塚崩し」、いい話系の「ヒョン」、出てくる幽霊の氣持ち惡さという点では「キリン」、短いながもリング的な怖さを凝縮した「殲滅」など。
「怨念」「祟り」による因果譚という点ではひとつの頂点を極めたともいえるこのシリーズのベスト版、昨今の實話怪談の結構や愉しみどころを考えるという点でもオススメしたい一冊といえるのではないでしょうか。ただやはり讀んでいて思ったのは、個人的には、幽霊よりも東京伝説シリーズのような怖さの方が現代ではリアルな怖さなのカモ、ということでありまして、東京伝説シリーズでも本作のようなベスト版を期待したいと思います。