小知堂文化からメールが來ていたんで何だろうなんて見てみたら、「野葡萄文學誌休刊通知函」、……って要するに「野葡萄」が今月で休刊するから定期購讀の為に振り込んでいただいていたお金を返金致します、という内容だったので吃驚ですよ。この雜誌が台湾ミステリに果たした役割は決して少なくないと思うので、休刊はちょっと、というか、かなり哀しいですよ。
まあ、今年は「MYSTERY」とか「謎詭」が創刊されて、台湾におけるミステリ界が勢いづいていることは確かなんですけど、よくよく見れば「MYSTERY」は洋モノの飜譯が中心だし、「謎詭」も同樣に日本のミステリを大々的にフィーチャーした内容で、いずれも台湾「本土」のミステリ情報はほとんど取り上げられていません。
一方の「野葡萄」はというと、初期の頃の「推理野葡萄」は、ミステリ關連のエッセイや評論を掲載する一方で、既晴や藍霄などをはじめとした創作小説にも力をいれていました。自分が冷言や林斯諺といった台湾氣鋭の作家の作品にはじめて触れたのも「野葡萄」だった譯ですし。
メールによると休刊の原因はやはり廣告收入の縮小にあったようで、このあたりは日本の雜誌業界も同じなのかもしれません。しかし個人的にこの敗因を分析してみるに、やはり日本の雜誌でいうと「ダ・ヴィンチ」路線を狙いつつ、魅力的な特集記事を組むことが出来なかったのがマズかったのではないかなア、なんて思うのですが如何でしょう。
何というか、微妙にマニア心を擽るというか、「活字俱樂部」までハジけなくとも、もう少し本好きの小説ファンにアピール出來る内容であったら良かったのに、とか、或いはもっとグラビアに力を入れて一人の作家を大々的に取り上げて特集を組んでみたりとか。例えば連城東野なんてメじゃないッ!というくらいの超絶ハンサムボーイ、張博鈞の卷頭グラビア10ページに、ピンナップなんてつけたらバカ賣れしたんじゃないか、なんて思ったりする譯ですよ(爆)。
まあ、休刊雜誌にいくら嘆いても仕方がないので、台湾ミステリの一ファンとしては、「MYSTERY」と「謎詭」にとりあえず期待するしかないんですけど、「MYSTERY」もホームズ生誕120周年の第二號に台湾ミステリの創作はなし、島崎御大がチョコンと日本の新本格について「漫談日本新本格推理1」という文章を書いているだけという按排で、こちらは台湾ミステリのファンとしてかなり物足りない内容です。
個人的には「謎詭」が日本のミステリをとっかかりに、台湾ミステリにまで大きく踏み込んで「本土」のミステリを盛り上げていってほしいなア、なんて期待してしまうんですけど、どうなるか。
しかし台湾ミステリの「本土化」を掲げた陳嘉振の「布袋戲殺人事件」がリリースされる一方で、「野葡萄」という台湾ミステリの復興を擔った雜誌が休刊したりと、今年もまた台湾ミステリにとってはある意味非常に象徴的な一年ということになりそうです。