レーモン・ルーセル變容體。
未讀だったので、文庫化を機會にゲットした本作、ホラーというよりは幻想文學に近いようにも感じられ乍ら、その一方で奇天烈なワンアイディアだけで押し切る強引さが、これまた昨日紹介したあせごのまん氏と同樣、非常に讀者を選びそうな雰圍氣です。
収録作は、串刺し女という凄まじいアイテムに魅入られた男の堕落を描いた表題作「姉飼」、トンデモ新型ダッチ・ワイフの獨り言「キューブ・ガールズ」、公園のジャングル・ジムというブツを人に見立てて詩的な殘酷童話を開陳する「ジャングル・ジム」、そして蜂まみれの島での奇態な一族の崩壞を描いた傑作「妹の島」の全四編。
「姉飼」は「姉」という言葉の意味合いを逆手にとって讀者の思考を破壊するセンスがいい。奇妙な豚や祭など、レーモン・ルーセルの魂が憑依したような描寫も素晴らしく、まずはこの強烈なビジョンと姉という強烈なアイディアでごり押ししようとする力業に脱帽です。
ただ、物語自体はどうにも一本調子で、子供の頃に祭で見た姉という凄まじいアイテム魅入られてしまった男の子が心の歪んだ大人に成長、壽司職人になったものの、稼ぎのすべてを姉ゲットにつぎ込んで堕落していく、……という話。姉をシバきまくる怪しいオジサン殺人事件や幼なじみの女の子失踪事件などを絡めて最後にオチが明らかにされるという趣向なんですけど、この幕引きはおおよその期待通り、という方も多いのではないでしょうか。
「キューブ・ガールズ」は、男に捨てられた女がグタグタと愚癡っているだけの話かと思いきや、何でもこの語り手の女はロボットならぬダッチワイフめいたオモチャだということを男から聞かされて呆然唖然。さらには賞味期限というのがあってもうすぐ自分がブッ壞れるというんだけど、……というような設定を明らかにしていきながら、頭の惡そうな女が延々と獨り言をダラダラと喋り散らすという内容。
「姉飼」と同樣、この作品も最後のオチが見えてしまうところがちょっと弱いかな、という氣がするんですけど、續く「ジャングル・ジム」は公園の遊具であるジャングル・ジムを人に見立てて展開される詩的な雰圍氣が一轉、最後に何とも殘酷童話めいたオチで締めくくります。
ジャングル・ジムという言葉の意味合いを逆手にとりながら讀者の思考を破壊する趣向は「姉飼」にも通じるものがあり、これが作者の風格なのかなア、なんて思いながらさらに續けて讀み始めた「妹の島」は前三作とはまったく雰圍氣を異にする異色作。
養蜂一族の崩壞を描いた本作は、その強迫的な文体と、蜂に刺されて快感を得る男、さらには蜂使いの女の子など、常人の想像を超える発想と殘酷まみれの展開など、この風格でまず思い浮かべたのは敬愛する平山夢明氏の作品群でありまして、これは完全にツボでした。
腐った果実の臭氣漂う島の情景、さらにはカタストロフの到来を予感させる不穩な空氣が次第次第に島を覆っていくところの緊迫感など、収録作の中では唯一、物語を語ろうという作者の強い意志が感じられる作品で、ワンアイディアで押し切るような力業を封印、語りの力で勝負しているところが素晴らしい。
ホラーというところからは非常に遠いところにあるような作品ばかりなんですけど、幻想小説みたいなジャンルが出版界には存在しない現状や、大石圭氏の作品もリリースされてしまうような角川ホラー文庫だったら、本作のような當に奇天烈ワールドが大展開する作品もアリでしょう。
語りの力の強さという點では、やはり昨日取り上げたあせごのまん氏の方が自分的には好みなんですけど、この作者の強烈な想像力は非常に希有だと思います。ただ、繰り返しになってしまうんですけど、小説に物語を求めてしまう自分としては、強烈なビジョンだけで押し切ろうとする「姉飼」や「キューブ・ガールズ」とかの作品はちょっとなア、……などと考えてしまうのでありました。まあ、勿論これは好みの問題なので。
次作の「弁頭屋」もタイトルからすると何だか「姉飼」系のお話かな、なんて感じですし。「妹の島」のような作品を作者が書いていくのであればいいんですけど、どうなんでしょう。