幽玄世界夢劇場。
本と音樂のブログとかいい乍ら最近は全然アルバムを取り上げていないので、偶には和ものプログレの傑作を紹介してみたいと思います。
本作は前にも取り上げた「運命の輪」のセカンドに當たる作品で、ファーストを凌駕する仕上がりの大傑作。前作以上にフルートをフィーチャーしているところが完全に自分好みで、そこに重量級のギターがDTばりの鮮烈なキメを叩き込んでくるという趣向は變わらず、曲の構成、またその逆の混沌ぶりも特筆もの。
最初の一曲「CRISIS」はジャケのタイトルとかを見ると何となく組曲っぽい構成になっているんですけど、冒頭ドラムがファイドインして、フルートが幽玄な旋律を奏で始めるとギターが切り込んでくるという展開は期待通り。個人的にマイってしまったのはやはり中盤の混沌を過ぎてからタメとともにフルートが身震いするようなテーマを繰り返すところで、もうこの一曲目だけで完全にノックアウトですよ。
後半はこれまた例によってやりまくりの大爆発を展開させるんですけど、要所要所に超絶ユニゾンを織り交ぜながらやりすぎの一歩手前でフルートが敍情的な響きを持たせているところに注目でしょうか。スペインのゴシックが大好きな自分としては最後の方で歌いまくるフルートがやはりいい。しかしこのフルートの奏でる幽玄世界に引き摺られてか、中盤に一瞬流れるギターが時代劇のテーマ曲にに、そして最後のユニゾンがどうにも祭り囃子に聞こえてしまうのは自分だけでしょうかねえ(爆)。
「ルサンチマン」は、ファーストでもただものではない技っぷりを披露していたベースの機械的なリズムで始まり、ギターとのユニゾンで盛り上げつつ、そこにフルートの旋律が美しく宙を舞うというこのバンドの定番ともいえる展開で、この曲でもファースト以上にフルートの音を強調しているように感じられます。
中盤の静のパートではジャジーに流れるギターと合わせてこれまたフルートが時に不穩な雰圍氣を添えつつ次第に盛り上がりを見せていくところから再び動に轉じて、前の「CRISIS」以上に小氣味よいユニゾンを聴かせてくれるところがいい。ユニゾンにフルートが絡んでいく構成の素晴らしさはこのバンドの最大の持ち味のひとつでしょう。
「すっげー深い穴を見つけたんだ!……」は例によってムチャクチャ長ったらしいタイトルの一曲で、冒頭こそブラスを交えて輕妙に進むものの、ここでもフルートが強音を放ちながら主導権を握ります。この曲でも正確無比なリズムのキレが光っているところにも注目でしょう。
「レーテ」は収録作の中では一番洗練された雰圍氣を感じさせる一曲で、ギターとフルートが緩急を交えながらパートを主導していく切り換えが絶妙。またこの曲でも時折挿入される重厚感のあるユニゾンがいい味を出しています。フルートとギターに隠れてベースが歌いまくっているところも最高で、中盤五分を過ぎたあたりからの展開も何だか自分にはラッシュっぽく感じられてかなりツボ。
しかし収録作の中から一曲を選べといわれたらやはり表題曲にもなっている「殼」でしょうか。とにかく冒頭、メロトロン風の「泣き」の旋律がイッパイに盛り上がれば、フルートが背筋の震えるような幽玄世界を現出させるところからして完全にアッチの世界の音。流石にこのあやかしのフルートの獨壇場では、いつもなら暴れまくるギターもさやかなアルペジオで後ろに引っ込むしかない、……かと思いきや、例のメロトロン風の音が盛り上がると重々しいユニゾンで切り込んでくるという具合で、動静の巧みな前半を過ぎるとベースが主導しながらしずしずと盛り上がっていくという展開に、今度はフルートと同樣にしっかりと泣いてみせるギターのパートも素晴らしい。
中盤部の静から再びユニゾンの爆音で動の部に切り替わるというこのバンドでは定番の構成もここまで聞き込めば完全に耳に馴染んでいて、その後に續くギターのソロから激しい息遣いまで聞こえてくるフルートの音もこの曲の見せ場のひとつでしょう。
そして眠りに落ちていくかのような冒頭部に再び立ち戻って、ドラムのフェイドインからまたまた例の素晴らしいメロトロン風の「泣き」で盛り上がる締めも完璧。十六分の大曲ながらまったくダレたところを見せない構成力も含めて、當にこのバンドを代表する代表曲といえるのではないでしょうか。
「トートロジー」は珍しく懷かしっぽいキーボードの音を交えて直線的に進行する曲。「殼」の余韻に浸るには些か「らしく」ない雰圍氣ゆえ、いつもこの曲は聴かずにやめてしまうんですけど、こういうのって自分だけでしょうかねえ(爆)。
という譯で、ファースト以上に凄まじい音樂世界を展開させている本作、ただ昔風味のプログレとはその風格を大きく異にするゆえ、案外聽き手を選ぶのカモ、という氣もします。プログレよりもDT系の音がツボの方の方が幽玄フルートの奏でる旋律がハードロック一邊倒の耳には新鮮に感じられたりしてハマれるのではないでしょうか。フルートマニアに強力推薦したいと思います。