ゴッタ煮ハードロマン、女尻嗜好。
何氣に本屋で復刊寿行本が平積みになっていたりすると、角川で揃えているとはいえ、ついつい手にとってしまいます。「君よ憤怒の河を渉れ」と同樣、今回も徳間からの復刊で、やはり大昔の角川文庫と違って文字が大きく讀みやすいのはいい、という譯で再讀したんですけど、後半、アラスカで大展開される主人公と敵方との行き詰まる攻防の内容はスッカリ忘れてしまっていたというのに、CIAのゲス野郎の尻の穴に主人公が擂り粉木をブチ込むシーンとか、重鎮醫者が女王様に「常平ッ」とドツかれる場面など、アレなところだけはシッカリと記憶に残っていたというのは如何なものか(爆)。
物語は冴えないタクシー運転手の男の元に訃報の手紙が舞い込んでくるところから始まります。その死んだ男というのが、このタクシー運転手とは「ある事情」で繋がりを持っている人物で、この事情に關連して關係者が次々と謎の死を遂げていきます。
ある者は病院で不審死、またある者は事故に擬装されてという具合で、残されたタクシー運転手は戰々恐々、ある夜、娘と一緒に西部劇なんか見ながらマッタリしていると、御約束通りに男どもが來襲。で、現場にやってきた息子の許嫁はそこを偶然通りかかった米軍のジープに乗せられ行方不明となり、男は「ケイサツニ、クラシイ」という謎の言葉を残して死んでしまう。
物語の主人公はこのタクシー運転手の息子で醫者でもあるハンサムボーイ。學生時代から成績優秀にしてスポーツも拔群、という惠まれた能力を発揮して、政治の闇に立ち向かっていく、……という寿行ワールドのフォーマットに則った展開を見せるのですけど、しかし復讐の為に醫者を辞めて巨惡を相手に戰う男の暴れっぷりはあまりに無謀。
そんな彼をいさめるのが警部補で主人公の妹の戀人でもあった男なんですけど、中盤まではこの二人が協力して巨惡の正体を暴いていくかたちで進みます。で、その間にニヤニヤしているCIAの要員二人に「われわれは、日本人の男、抱いてみたいのです。これから、交替であなたを犯します。それがいやなら、白状しなさい」なんてタドタドしい日本語で脅された擧げ句に結局カマをほられてしまったり、或いは自分の恩師である重鎮先生に探りを入れる為、多淫看護婦と懇ろになったりするんですけど、個人的には愛人宅に盗聴器を仕掛けて、重鎮先生の變態ぶりを知ることになる場面がやはりツボ。
冒頭、アッサリと殺されてしまう主人公の妹も「二十三歳の秀美の体は成熟しきっている。ヒップの位置が高い。豊かな肉づきだ。ジーパンが張りきっている」美女だったんですけど、この愛人もまた「背が高くプロポーションが優れていた。下半身が長く、尻が高い位置についている。その尻も豊かで、ジーパンがはち切れそうにみえた」と女尻に竝々ならぬ執着を見せる寿行センセらしい描寫が冴えています。
で、この愛人と行う重鎮先生のプレイというのが、愛人を男のご主人樣に見立てて自分は女の役回りを受け持つというもので、普通の會話をしている時はスッカリ甘えている愛人が「常平ッ」という怒號を一閃、變態プレイがスタートするという趣向で、主人公が盗聴しているシーンを輕く引用してみるとこんなかんじ。
「仙台に連れて行ってやろうか」
島中の声が入った。
原田は緊張した。それまでたわいもないことを島中と美都留は喋っていた。
「うれしい!ほんと、それ」
「各大学の教授会があるんだ。……おれも、息抜きをしたいところだ」
「いつ!いつなの、ね」
「教授会は三日後だ」
「じゃあ、明日じゃない、出発は」
「そのつもりでね、予定は組ませてある」
「わあ、うれしい!」
檻から開放されたような声だった。
しばらく雜音が入った。
「常平ッ!」
キラッと光が反射されたようなするどい声が入った。
「はい」
――またか!
原田は眉をしかめた。
美都留が島中の前に仁王立ちになった姿が見える。くびれた腰に手を当てている。あるいはもう鞭を持っているのか。常平ッと叫ぶその侮蔑の言葉が、一気に島中を倒錯の世界に引きずり込むキーワードであった。島中の心中に棲む暗い欲望がそのキーで蠢きはじめるのだ。島中にとっては、美しい美都留にそう呼ばれることは、内深くにふるえをもたらすようなものであった。
そのあと、愛人の美都留が男言葉でゲス醫者の島中をおまえ呼ばわりして虐めるシーンが展開されるんですけど、結局仙台で主人公はこの重鎮野郎を崖から突き落として殺害、事件が戦中のクラシイ島での伝染病研究所に端を發することを突き止めた主人公はいよいよ、舞台をアラスカに移してCIAや政治家の黒幕であるサド野郎と雌雄を決することになるのだが、果たして米軍に拉致された愛人は無事なのか、そして主人公の運命は、……。
アラスカでの主人公の大活躍ぶりは壯快で、吹雪の中で熊を相手に格闘したり、セスナを空中で戰わせての銃撃戰など、まさにエンタメ要素をイッパイにブチ込んだ寿行ワールドが大展開。希望を残した美しいラストもお氣に入りで、當に寿行世界を満喫できる代表作といえるのではないでしょうか。
後半のアラスカ編での大風呂敷の廣げ方や、尻にこだわる變態場面の描寫など、寿行ハードロマンの完成形のひとつと見ることも出來る本作、この復刊を機會に是非とも多くのキワモノ嗜好の方に愉しんでいただければと思います。