大石圭の最新作にして、前作「四人の食卓」に引き續いての韓國映画の小説化。「四人の食卓」は今ひとつ大石ワールドに乘り切れていなかった感が強かったのだけども、今回は凄い。登場人物の總てか大石ワールドの人間として「生き生き」と描かれています。
ただ、……今回の小説のキモは、主人公のオ・デスと、ミドとの關係にあると思うのですが、これ、最初から分かってしまいましたよ。終盤に至って眞相が明かされたときに驚きはなく、まあ、期待通りというか。
今回の物語で、一番キていたのは敵役となる大富豪の男。基本的に主人公であるオ・デスを中心にした三人稱で話は進んでいくわけですが、時折、この敵役の独白が挿入されます。これがいい。独白の最後に決まり文句があって、
「笑う時は世界と一緒。だが……泣く時は、オ・デス、お前ひとりだ。」
またこの大富豪、大石圭の敵役としては定形化してきたかんじのオタクで、アンティークカメラを蒐集していたり、バズーガみたいな望遠レンズをニコンに取り付けて、主人公の動向を覗き見していたりする。何となくこの人物造型は「自由殺人」の敵役に似ている。
大石圭作品の中ではかなりお氣に入りの作品ではあるけども、「アンダー・ユア・ヘッド」は越えていないかな、というかんじ。やはり自分にとって大石圭の最高傑作は現時點でも「アンダー・ユア・ヘッド」ということに變わりなし。