ジワジワと效いてくる。
そろそろ綾辻センセのミステリーランドもリリースされるしということで、これを機会にと未だ未讀の竹本氏の作品を手にとってみました。トラウマ系だという噂をチラホラと耳にしていたのでそういう話だろうと期待していたのですが、なるほど、「神樣ゲーム」のような即效性こそないものの、讀後じわじわと效いてくる作風は惡魔的、これはかなり好みですよ。
物語は基督教の学園で起こる神父殺害事件なのですが、この神父の死に方がかなり強烈。冒頭、いきなり稻妻を浴びて焼死ときたから基督教徒であれば天罰と思うのは當たり前、その後、今度は部屋の中で別の神父が黒焦げ死体で見つかったから学園はテンヤワンヤの大騒ぎ、……かと思いきや、主人公たちや一部の生徒を除いては学園はお通夜のような雰囲気に沈んでいるというところがちょっと不氣味。もっともこれには譯があるのですけど、これが最後の最後で明かされるところが何ともですよ。
また主人公の語り手が夢に見るという赤い馬の姿が薄氣味惡い。全身をヌラヌラと光らせ闇の中に嘶く姿は凄まじく、血走った眼を光らせながら、バフバフと鼻息も荒く歯を剥き出しにしてこちらに向かってくるおぞましさはかなり強烈。何故主人公はこんな馬の夢を見てしまうのか、というあたりも最終的には答が呈示されるのですが、黒焦げ神父の殺害方法を巡って、やれ火炎放射器を使っただの、人体発火現象だとトンデモな推理を披露するあたりは学生らしくて笑えます。
で、少年たちの惡意と憎惡が結実した何とも惡魔的な眞相が明らかにされるラストはかなりキツい。「神樣ゲーム」の、いかにもつくられた虚假威しめく衝撃も素晴らしいのですが、竹本氏の描き出す少年の惡意というのは、いうなれば天然生來のものでありますから、毒の強さとしてはこちの方が上かもしれません。
あとがきの「少しでも読者の方がたの胸に響くものがあれば幸いです」と惚けまくった(天然?)台詞も素晴らしく、島田御大の「透明人間」と竝ぶダークな作風はミステリーランドのシリーズではやはり異色。
ミステリーランドのシリーズに連なるトラウマジュブナイルを陰陽に分けるとすれば、陽の「神樣ゲーム」に対して、「透明人間」と本作は陰、ということになるでしょうか。「神樣ゲーム」のようにその惡意が明快でないぶん、寧ろこちらの方が太刀が惡いかもしれません。
事件の真相のエグさに比較して、トリックの方はかなりトンデモなのですが、この異樣な学園の中ではこんなのもアリかなと思わせてしまうほどの雰囲気が作品に立ちこめているところが何ともですよ。作者の作品に親しんでいるファンであれば安心して少年たちの憎惡と惡意が釀し出す毒を堪能出來る佳作でしょう。