最近になってやっと讀みました。分厚いのと、單行本で讀むのを逃してしまっていたので、そのままになっていたのですねえ。
何か「聖アウスラ修道院」から比べると、えらく進歩しています。どうもアウスラは「薔薇の名前」を稀釈したような安っぽさがイヤだったのですが、これは本家本元の「黒死館」に比肩する重厚さを備えていると思う。
出だしの、殺人事件が発生してから探偵と警察が館にやってくるシーン。これも「黒死館」を踏襲していて、良い。さらに良いのは、小栗の文章よりも遙かにら讀みやすいこと(二階堂黎人の文章は本当に読みやすい)。
そして最初の殺人事件の現場も凄い。首なしの死體が四体甲冑に圍まれた密室、というミステリ好きにとっては嬉しくなるような謎の提示。そのほかの不可解な謎もなかなか印象的で、逆樣に浮かんでいる甲冑の幽靈とか、青白い燐光を放つ女の幽靈などなど。自分は甲冑の幽靈は絶對に密室の鍵を解くヒントになっているな、とにらんでいたのですが、これはアテが外れました。
「アウスラ」を讀んでその安っぽさにウンザリしてしまった人もこれは手にとってみるべきでしょう。文章といい、構成力といい、文句なしの風格があり、「吸血の家」のような犯人が明らかになった時の驚きは少ないものの、一册の小説としての面白さは昔の作品に比べてこちらの方がすぐれていると思います。