ギャグ、やり過ぎです。讀んでいる間、クスクス笑いが止まりませんでしたよ。
デビュー作「密室の鍵貸します」に續く烏賊川市シリーズ第二段、ということで、「密室の鍵貸します」で探偵を務めた鵜飼、そして勝手に「探偵の弟子」にされてしまった戸村もシッカリ登場します、というか、第一の殺人の被害者である浮浪者金藏をはじめとして、一作目で顏を出していた殆どすべてのキャラが登場するという周到ぶりにまず驚きます。
第一章「刑事たちのプロローグ」は御約束通り、作者の前口上から始まるのですが、この古風な探偵小説の構成を踏襲しながら、吹き出してしまうようなユーモアや寒いギャグを隨所隨所に打ち込んで現代フウに纏めているところが作者の風格でしょうか。
「密室の鍵貸します」でも登場した志木刑事砂川警部のコンビも健在で、ノッケからドジを踏んで拳銃を何者かに盜まれてしまいます。後日、鳥の岬にある食品會社の社長宅で密室殺人事件が発生し、その事件に盜まれた拳銃が使われていたことが分かり、……というふうに物語は展開します。
この密室殺人が行われた現場には、例によって鵜飼探偵とその弟子である戸村も居合わせていたことから、彼らはこの事件の謎を解こうと奮闘する譯ですが、そこに鵜飼の事務所の大家、朱美も絡めて、ああでもないこうでもないと樣々な假説を推理しあう中盤の展開がとにかく愉しい。
更にひょんなことから戸村と知り合うことになった十条寺食品の会長の十三、そして孫のさくらと、鵜飼たち以上にキャラ立ちした登場人物も加わって、事件の展開をハチャメチャに盛り上げてくれます。もっとも今回の事件を引っかき回しているのは、物語の冒頭でドジをやらかして拳銃を盜まれてしまった志木砂川の警察コンビな譯ですが。
ギャグの方も、ルノーネタは相變わらず、「いかがわしい警察」だの、「もうちょっと早く気がつけ、志木刑事」と作者自らが登場人物にツッコミをいれてしまったりと前作以上に冴えまくっているところもいい。しかし、この軽く、ときには寒くも感じられるユーモアセンスに氣をとられていると、作者が隨所に張り巡らせた伏線を見逃してしまうことになる譯で、まったく油断がなりませんよ。
事件自體は密室殺人であるものの、密室に絡めて死体が転がるのも一度きり、それでこれだけの枚数を引っ張っていってしまうのですから、東川氏、この惚けた作風とは裏腹に、実はかなりの筆力の持ち主なのではないでしょうかねえ、ってもう皆さんも気がつかれていましたか。
事件の仕掛けの方は正直まったく分かりませんでした。犯人もサッパリ検討がつかなかったんですけど、驚いたのはその犯行方法。事件現場で皆が銃声を聞いていたのですが、彈痕と銃声を逆算すると、どうしても彈數がひとつ足りない、犯人はどうやってこの犯行を爲しえたのか、というところがキモなのですが、これにこんな仕掛けがあったとは。そしてその仕掛けを行う為の伏線も、最初の方でさらりと描かれていて、それがまた冒頭の浮浪者殺害事件にも絡んでくるという周到な構成が光ります。
そしてこれは前作でも感じたことですが、輕妙な語り口と吹き出してしまうようなユーモアセンス、さらにはそうしたユーモアのなかに伏線を隱してしまう巧みさなど、やはり東川氏の作風って、泡坂妻夫に似ているなあ、と思いましたよ。表面上のフザけたギャグセンスばかりに目がいってしまいがちなんですけど、提示される謎と、それが解かれる過程で展開される樣々な假説の應酬、伏線の回収と、実は東川氏の作風って凄い正統派なんですよねえ。「deltaseaのミステリライブラリ」のdeltaseaさんも述べておられますけど、「あけすけな本格ミステリ(的な謎)に対する愛」が感じられ、それがまた自分のようなミステリファンには微笑えましい。
輕さの中に光る正統派の香りを堪能したい佳作でしょう。おすすめ。
こんばんは。
東川作品、私、ハマってます。
構成がきっちり決まってきて
しかも全編にわたって思わずふき出してしまうネタが仕込まれてますから。
おかげで電車内で読むときは細心の注意を払ってます。
“突然笑い出す怪しいヤツ”だと思われますので。
deltaseaさん、おはようございます。
東川作品を電車の中で、は危ないですね。自分も同じことを經驗しました(^^;)。構成に關してはその通りで、特に伏線を考慮した物語のつくりかたが泡坂作品に似ていて、フザけた外觀に反して正統派のミステリだなあ、と思った次第です。烏賊川市シリーズはまだ續きがあるので愉しみですよ。