相變わらず變人のオンパレード、そして事件のハチャメチャぶりと、作者の作風の凄さが炸裂する本作、物語の展開は立て續けに人が死んで、探偵が最後に推理して、……とありふれたもの乍ら、この苦笑したくなるギャグセンスや奇矯な登場人物が演じるブラックな雰囲気と、「Zの悲劇」を髣髴とさせるロジックのミスマッチが愉しい作品です。
物語の狂言廻しは警視廳警部の倉吉で、彼がひょんなことで知り合うことになったインチキ神社と藝能界で起こった連続殺人事件を、「大物俳優にして衆議院議員、人気と權力を濫用する名探偵」駄柄善悟がその名推理で解決するというお話です。
纏めてみればいかにも簡単なあらすじになってしまうんですけど、とにかく立て續けに発生する殺人が作者らしい奇妙な謎に満ちているところがいい。建築中の稽古場ビルで発見された宮司の死体は、高さ四メートルほどの天井に頭を強く打ち付けて殺されていたというものなのですが、これなどはまだ序の口です。槍で壁に串刺しにして殺されていた死体や、更には關節という關節をメタメタに碎いて神社の敷地に埋葬されていた死体などなど、とにかく全てが尋常ではありません。
一番のキモは槍で串刺しにされていた現場が二重の密室になっていたというところで、チェーンでロックされていた部屋から犯人はどうやって脱出したのか、もし部屋の外から犯行に及んだとしたら、犯人はどうやって扉の狹い隙間から被害者を串刺しに出來たのかというものなのですが、ここで明らかにされる真相というのはもう滅茶苦茶です。確かにそうすれば、出來ないことはないでしょうけど、これはあんまりですよ。あまりの凄まじさに言葉を失ってしまいましたよ。
まあ、眞相が明らかにされて一番驚いたのは確かにこの密室の仕掛けなのですが、感心したのは、やはり冒頭に挙げたロジックの冴えでしょう。
作者が鏤めておいた樣々な伏線と手掛かりによって、一人また一人と犯人が消去法によって絞られていく手際の良さがとにかく光っています。作者の作風ではどうにもこの奇矯な登場人物とサムいギャグばかりに目がいってしまうのですけど、この破天荒な物語の雰囲気のなかへ見事に隱された手掛かりが、探偵の推理の段階になって明らかにされていくという、この展開が素晴らしいのですよ。本作は當に消去法の美學が光る作品といえるでしょう。
眞相が判明してもまだ動機のほうが判然としないのですが、それも最後の最後で事件の中心にいた或る人物の告白によって明らかになります。そしてこの、ハッピーエンドともバッドエンドとも、何ともいえない唐突な終わり方も作者の作品らしく、徹頭徹尾、霞節が暴走している本格ミステリ。
破天荒な物理トリック、ロジックの冴え、いずれを求めるミステリマニアも満足出來る好編といえるでしょう。おすすめ。