下卷は一氣に讀んでしまった。なかなか御手洗も吉敷も登場しないのですが、最後、吉敷がヘリで現場に駆けつけて推理します。御手洗は電話だけ。吉敷は御手洗の残した言葉をヒントに犯行を推理する、という段取り。
犯人と犯行方法は予想外のものでびっくり。というか謎があまりに荒唐無稽なので、下卷を讀んでいる間は、「いったいどういうふうに終息するんだ?」と考えていたのですが、ちょっと強引なところはあるものの、ちゃんとした解答が出されています。
何というか、「奇想、天を動かす」のような、犯人の悲哀というものが傳わってくる作品です。犯行の壯大さという點では「奇想」の方が上だけども、こちらも捨てがたいと思う。
「ネジ式」よりもこっちの方が好み。「龍臥亭」よりも説得力のある終わり方をしていると思う。
個人的には本編とは直接関係ないものの、戦中の手記、「N研究所の思い出」のあとが凄く氣になる。
こんにちは。私はハードカバーは買わない人間なんで、綾辻氏の「びっくり箱」も読んでないのですが、すると「暗黒館」は…レビューされてないようですが、肯定的に受け取られたようですね…?
ならばと思って、この作品のレビューをチェックしてみました次第です、いやあまり関係ないかも知れませんが。
私は「ザゼツキー」の方が好きなんです。あれは、冤罪を晴らす物語、というよりも、謎を解くという行為が物語の前面に出ていますよね。それが「占星術」のようで好きなんです。だから「眩暈」に似ているとか、物語性が(島田氏にしては)薄い、という事は気にならなかったのです。
一方でこの「龍臥亭幻想」、謎解きに非常に不満が残ります。トリックは確かに凄いです。でも、あれを事前に解くにはかなり妄想たくましくしないといけないです(^^;)、アンフェアとまでは言いませんが。「ザゼツキー」は”安楽椅子探偵”です。御手洗は(彼にとっては普通ですが)現場を全く見ずに解いている。探偵の持つ情報は読者と同じ、完全にフェアです。この違いは、途轍もなく大きいですし、そういうフェアな謎解きというのはミステリ史の中でも希少価値のあるものです。逆に言えば「龍臥亭幻想」は島田ミステリ中のヴァリエーションの1つに留まります。
それに、私は、せめて石岡に謎を解いて欲しかった。探偵役が3人揃って誰も結論が出せないとは何事か(笑)? 「N研究所」の手記がオチてないのも不満だし、まるで綾辻作品のような「事件を予見したような謎の絵画」のフォローもない。あの島田氏が、こんな無責任なミスディレクションをした作品って、そんなにないですよ(笑)。
でも、貴兄は「龍臥亭幻想」の(というか石岡のセンスだと思うのですが)人間ドラマという側面を気に入られた様子に見受けられます。そうであれば「暗黒館」もOKだったのかなあと、そんな風に思いました。
zeitさん、こんにちは。
「暗黒館」はちょっと長過ぎるかな、と思います。物語は好きなんですけど、綾辻氏がああいう冗長に話を引っ張って雰圍氣で盛り上げていくという方向にいくのはちょっと好きではないなあ、と思ったりします。もっとも再讀したらまた印象は變わるかもしれません。
何か昔に自分が書いたレビューを讀みかえすのは凄く凄く気恥ずかしいものがありますねえ(^^;)。本作も含めて昔讀んだやつはまた再讀したときに書き直したいですよ。
自分はきっと島田御大の作品にはミステリとかいうよりも人間ドラマとか奇想を期待しているのだと思います。謎解きにおけるフェアプレイとかはまあ、二の次というか。トンデモない奇想がどういうふうに回収されるのか、そしてその事件に絡んでた人物の背後にはどんなドラマがあったのか、とそれだけが気になるというか。だから「アトポス」以降の作風も容易に受け入れてしまうんですよねえ。
確かに「占星術」と「ザゼツキー」は確かに安楽椅子探偵ものという視點から見ると、構成は似ていますね。zeitさんにいわれて気がつきました。小説としての構成(不可思議な手記を御手洗が解讀していく)という部分にばかりに目がいってしまっていましたよ。
島田氏、多分、都会っ子の現代っ子で、田舎にはネガティブなイメージしか持ってないですよね(笑)。乱歩や横溝の奇想は絵になるけど、島田氏の奇想は絵になり難い。なんでかって、イメージに背景がないですから。そういう人がポルシェとチック・コリアが好きで日本が嫌いだというのが実にわかるというか。
「飛鳥のガラスの靴」なんてイメージの美しい話だと思いますが、奇想というと、私は解かれることを前提とした奇想だなと、島田氏に関してはそう思っています。だから解けてしまうし、解けるとつまらない。私は「ザゼツキー」「ヘルタースケルター」でビートルズが物語とドンドン有機的に結びついていくところで快哉を叫びましたが、そちらの方ですかね、好きなのは。音楽をネタにするミステリ作家は結構おられますけど、島田氏は第一人者というか(^^;)。