ミステリのブログだっていうのに、こういうのを取り上げるのも激しくアレなんですけど、やはりトラウマを克復する為にはシッカリとやるべきことはやっておかなくては、という譯で、讀みましたよ、「アルレッキーノの柩 」の作者、真瀬もとのBL小説。
本作を讀むに至ったいきさつを少しばかり説明しますと、ハヤカワ・ミステリワールドが鳴り物入りでリリースした「アルレッキーノの柩」を讀んだのですけど、自分はまったく愉しめなかった譯です。で、讀了したその日はすっかり頭に血が昇ってしまって、ひどいレビューを書き込んでしまったのですけど、これはもう少し考えてみる必要があるのではないかと思い至った、と。
何故自分はこの作品を愉しめなかったのか。ハヤカワが惡いのは確かだけども、では作者の作品のなかでもあの衝撃作「アルレッキーノの柩」はどのような位置付けになっているのか。
作者のBL小説を読んでいる讀者の評價は概ね宜しいようなのだけども、やはりミステリ讀みからの評價は、まあ、自分ほどひどくはないにしても、冗長、話が転がらないなどの意見が多く、やはりミステリとして見た場合、ハヤカワが凄まじい煽り文句をつけて賣り出すほどの作品ではないのではないか、と感じてしまったのでありました。
それでもまずは作者のミステリとしての力量を見極めてみないことにはあの作品をマトモに評價することは出來ないのではないか、とも思う譯です。だったらもう讀むしかないでしょ、作者が書いてきたBL小説を。
と、前置きが長くなりましたが、そんな譯で真瀬もとのBL小説のなかから一册、適当なものを見繕おうとしたのですけど、どうにもどれが作者のキャリアのなかで代表作と呼べるものなかは判然としませんで。
BL小説の大御所の方々のブログなどを色々と巡回してみたものの、あんまり真瀬もとの小説を読まれている方がいなくて、困りました。
で、仕方がないので、「英國はロンドン」「十九世紀」「貴族」などという單語があらすじに竝んでいる本作が一番「アルレッキーノの柩」に近いのではないかと思い、とりあえず一巻を讀んでみることにしたという次第です。
― 混乱する、泣き出したくなる、まるで僕がアルジーを愛しているみたいに…。時は19世紀末、ロンドンで探偵をするロバートは、美貌の貴族アルジーと時にベッドを共にしている。それは法律に背く関係。しかも、互いに別の相手を思いながらの行為に、愛はない筈だったが…。表題作ほか、二人の取引の始まりを描く「undo―アンドゥ―」を収録。醜聞と恐喝、毒薬、そして幽霊―英国式Forbidden Romance。
何だか、ジャケ裏のあらすじは完全にBL小説のアレなんで、ミステリとしての流れを簡單に纏めますと、大きな謎は消失した死体、というものです。
以前自殺したピアニスト、アーサー・クライブと噂のあった女性、レディ・ジョアンの死体を探してもらいたいと依頼を受けた探偵アルジーと「僕」ことバート。物語はこのバートの一人稱を語りとして進んでいきます。
このクライブ家には自殺したピアニストの一件も含めて色々と曰くがあるのですが、死体の消失した状況の詳しい檢分などは拔きにして、まずは動機の方面から事件の容疑者を絞り込んでいくという物語の展開は「アルレッキーノ」と同じ。
このあたりでチとヤバイな、という氣はしたのですけど、意外や意外、謎解きの方も綺麗に纏まって、オチのつけかたもうまく、ひとつのミステリとしてうまく回収されています。本格ミステリ以前の探偵小説として見ればなかなか愉しめるではありませんか。
ワトソン役のバートが毒を仕込まれたりするのですけど、これが最後になってもう一つの事件の真相を明かすような趣向もいいし、短い頁数で物語をうまく展開させていると思います。あらら、小説として見た場合、なかなかうまいじゃないですか。
「アルレッキーノ」の場合は、探偵役がどうにも未練がましく過去の女性を思い出しては悶々としていた譯ですが、本作の場合、探偵役のアルジーがこの役。
繼母をアレして生まれた自分の妹であり娘でもあるクリスティナにトラウマを抱えていて、さらにこのワトソン役のバートが繼母に似ているという理由で手込めにしてしまう。
このバートも以前は男娼をやっていたという前科があるから、アルジーに攻められても文句はいえず、結局ズルズルと關係を續けてしまっている。で、そんなうちにバートもまたトラウマ抱えて少しばかりブッ壞れてしまっているアルジーのことを放っておけなくなって、……というようなかんじで、二人のアレな關係を軸に据えつつ、ミステリとしての結構をしっかりと纏めた作品になっていて、「アルレッキーノ」では鬱陶しかった登場人物の過去のトラウマという設定も、うまく物語のなかにとけこんでいるのですよ。
まあ、正直アレなシーンは野郎の自分にはちょっとアレだったんですけど、何よりも困ったのはアレなシーンには、バートがアルジーにアレされるイラストがシッカリと添えられておりまして、これを電車のなかで讀む時の恥ずかしかったこと恥ずかしかったこと。
何しろ列車の個室のなかでいやがるバートをアルジーがねじ伏せて、……という強引さで、もうこのアルジー、完全にブッ壞れています。バートに對しては「きみを激しく求めている」「欲情している」なんていうわりに、「私はきみを愛してなんかいない」とバッサリ。
それでもこんな情緒不安定なアルジーを放っておけないバートはかなりアレなんですが、「アルレッキーノ」と違って、ウジウジする役割が主人公のバートではなく、その相方のアルジーに据えてあるというところがいい。
という譯で、ミステリとしても結構まとも、BL小説としてはアレなシーンが控えめだったので、こういうシーンだけを渇望されている方々の意見は分からないのですけども、登場人物もなかなか好感が持てるキャラばかりだし(特にバート)、意外や意外、愉しめました。
で、ここでようやく本題に戻るのですが、じゃあ、「アルレッキーノ」はどうだったの、と。
やはり冗長だと思うんですよ、あれは。本作みたいに贅肉を落として、うまく纏めてくれていれば、もっと良かったのに、と思いました。というか、「アルレッキーノ」もひとつの事件で引っ張らないで、連作短篇にしていればどうだったのかと。一つの事件を本作くらいの厚みで引っ張って、最後に魔女考を据えた事件の真相があきらかになる、みたいな趣向でいっていれば、自分のようなミステリ好きも愉しめたのに、……ってまあ、自分みたいなプチブロガーが意見したって仕方がないんですけどねえ。
とりあえずいま迷っているのは、本作の續きとなる<2>と<3>を讀むべきかどうかということでして。やはり最後までこのバートとアルジーの行く末を追いかけた方が良いんでしょうか。ミステリっぽい展開があるなら讀もうかと思うんですけど、あらすじ讀む限り、何だか二人のアレな展開だけで引っ張っているみたいなので、ちょっと迷ってます。どうしたものか。