うわあ、これはキツい。
猫は勘定にいれませんのtake_14さんが「最悪の読後感を味わわせてくれる小説」として紹介していた本作、確かにこれは凄い、というがキツい。
ひとことで纏めると、日野日出志発乙一経由、マルキ・ド・サド「ジュリエット物語又は悪徳の栄え」地獄行きといったかんじでしょうか。
塵集積場から見つかったテープ。そこには少年の悲痛の独白が収録されていて、その内容とは、……という物語なのですが、何よりも少年の凄慘な独白の内容と、それを聞く大人たちの冷め切った態度との對比が痛ましい。
前半の疊み掛けるようなグロ場面も少年は淡々と語るのですが、傷口に虫が集るあたりといい、何というか、本當にこのあたりの吐き気を催すほどの描写は日野日出志の「六蔵の奇病」もかくやというほどの凄慘さです。
しかしこれはまだよろしい。最惡の讀後感を催すのはこの救いのない終幕で、そのための複線もしっかりと用意されています。それが中盤に登場する少女との交流で、これがテープの語り手となっている少年に一抹の安らぎをもたらすのですが、すぐにまたダウナーの臭気漂う展開へと後戻りし、あとは救いのない、鬱々とした描写にへこみながらそれでもどうにか讀み進めます。すると最後はある種の美しささえ感じさせる炎とともに物語の舞台そのものが消失して終幕、……ってこれはもう。
傑作かどうか判断に苦しむのですが、全編に漂う、この何かいいようのない気迫は確かに尋常ではありません。小説というよりは、詩じゃないのかな、と思ったりもします。中野のちいさな映画館あたりでひっそりと上映される前衛映画のような趣もありますねえ。
確かに讀んだら鬱になりますよ、これは。物語の展開は予定調和的といえますが、実はこの不快感は全編に渡って展開されるグロな描写にあるのではなく、少年の叫びもまったく意に介さない大人たちの、恐ろしいほどの冷酷さと、この凄慘なシーンとの對比、そしてそこから釀しだされる違和感にあるのではないかな、と思うのですが如何。
短いし、改行も多いので、あっという間に讀み終えてしまいます。これは確かにちょっと讀み返すのがツラい物語ですね。決して萬人におすすめ出來る作品ではありませんが、ちよっと気分がハイ過ぎるので、イヤーな話でも讀んで思いッきりへこんでみたい!という奇特な御仁には是非とも一讀をすすめてみたくなる怪作であります。
その奇特な人になってみたいです。ちょっと読んでみようかなと思ったのは私だけではないはずです。
いつも拝見していますが、本に対する考察がとても伝わるので非常に参考になります。本は読むのですが、なかなかここのような立派な書評(で良かったのでしょうか?)は書けないので、勉強にもなります。
mineさん、こんばんは。
いやあ、そういっていただけると嬉しいです。ただ自分がここで取り上げている作品ってあるものは絶版だったりと、所謂マイナーで殆どの人が知らないような作品ばかりなんで、果たしてどれだけの人の參考になっているか……。
まあ、それでも有名な作品であれば、自分が取り上げずとも誰かがレビューしてくれている譯ですし、新作を織り交ぜつつ、暫くはこのマイナー路線で突き進んで行こうと思っています。
読まれましたか!これでtaipeimonochromeさんも物好き認定ということで(笑)。
本書が小説の体をなしていないというのは僕も思ったところなんですが、詩じゃないかとの指摘にはヒザを打ちました。確かにそんなところがあります。その中で挿入される会議のパートが異様に浮いていてまたイヤな感じなんですよね。
ところで上の方もおっしゃってますが、taipeimonochromeさんのレビューは素晴らしいと僕も思います。なにがって、文章を読めば絶対にこの人の文章だってわかるのが凄い。自分のことなど言うのも面映いですが、(根本的なつたなさは置いたとしても)どうも自分の文には色がなくて…。アッパーな小説を読むとそれなりに、時代物を読むとそれっぽくという具合で「自分の文体」みたいなのがないんですよねえ。ここのコメ欄に来るとtaipeimonochromeさんっぽい文章を書いてる気がするのが始末におえない(苦笑)
それは置いても、こちらで知らなければ戸川昌子さんの作品など読むこともなかったですし、本当に感謝、感謝です。ではまた!
take_14さん、こんにちは。
そうなんですよ。この會議のパートが何か凄くイヤで。自分は結構グロ場面には耐性があるんですけどね(^^;)。何かこの作者って角川ホラー文庫でほかにも出していますよね。ちよっと讀んでみようかなと思っています。こういうグロは作者の持ち味とはちょっと違うんじゃないかなと感じるので。
自分の文章に個性があるとの指摘には驚きです。自分で自分の文章を讀み返してみると、どうもオッサンくさくてじめじめしてあまり好きではないのですが(^^;)。もっとtake_14さんみたいに若々しくて勢いのある文章を書きたいですよ。
戸川昌子はほかにも取り上げたい作品がたくさんあるんですけど、いかんせん絶版ばかりなんですよねえ。上にも書きましたが、新作を紹介しつつ、こういう絶版になった名作を取り上げていくのが自分の使命かな(大袈裟か)、と感じる今日この頃です。