三津田ワールドにおけるホラー・ミステリというと、ミステリにおけるロジックを極めた帰結としてホラーへと転じたり、あるいはホラー的意匠をまとっていながらそれがロジックによって現実的解を明らかにしてみせたりと様々な趣向がキモなわけですが、本作では何やらあやかしの存在がほのめかされ、それとともに不可解な死が続発するというあたりからその展開はホラーっぽくもあるものの、後半に大展開される迷走推理は紛れもなく三津田ミステリのソレ。
物語は、命の電話にかかってきた自殺志願男の一本の電話が、忌まわしい過去を引き寄せ、そこから怪異が立ち上っていく結構で、不可解な死の連鎖にはどうやら幼なじみたちの忘れられた記憶が関連しているらしい。果たして過去に何があったのか、そして続発する死は本当に怪異によって引き起こされたものなのか、……という話。
探偵役となる作家も過去の出来事に絡んでい、いうなれば当事者でもあるわけで、探偵行為を進めていくうち次第次第に事件の核心へと近づいていくのですが、幼少時の曖昧な記憶が次第に明らかにされていくという定番の展開の中に、警察の捜査陣も絡めたミステリ的な結構がフーダニットにおける絶妙な目くらましになっている見せ方など、ホラーでありながらしっかりとロジックによって構図を構築していくところは「死相学探偵」シリーズなどにも見られる素晴らしさで見せてくれます。さらには後半になだれ込むと、迷走推理によって多重解決的な外連まで見せて読者を魅了する手際はミステリ読みでも十二分に満足できるのではないでしょうか。
挿入されるだるまさんが転んだのシーンにチラチラと仄めかされる忌まわしき影の存在など、こちらには三津田ホラーならではの邪悪さを凝らし、ホラーという点での怖さもしっかりと味わえるところも秀逸です。
上にも述べたフーダニットがミステリ的な見所としては本作でもっとも際だった魅力ながら、とはいえ、そう単純に割り切れるものではありません。過去の忌まわしき記憶を辿るうちに明らかにされる事件と、現在進行形のコロシの連鎖が絡み合うところなど、幼なじみが次々と殺されていくというシンプルな構図だからこそ巧みに隠されてしまう真犯人の姿は、同時に過去のシーンで繰り返される「だまるさんがころんだ」において、視線の外にチラチラと姿を見せては隠れてしまう影の存在と不気味な重なりを見せます。
奇しくもこの前に取り上げた藤ダリオの『同葬会』が、過去の記憶やら同級生たちのコロシの連鎖など、本作と非常に似た趣向と展開を見せているのですが、ミステリとしてもホラーとしても何というか、……格の違いのようなものを見せつけられたというか、定番の設定をどうすれば面白く盛り上げることができるのか、というあたりを、本作と比較してみるのも一興でしょう。三津田ワールドのファンであればまず安心して愉しむことができる風格ゆえ、ホラーとして読んでも、またミステリとして読んでも両方の美味しさを堪能できるという点では非常にお買い得感の高い一冊といえるのではないでしょうか。オススメでしょう。