映画「恐怖」のノベライズ版ながら、全編、何だか話の筋も判然としないシュールというか何というかという怪作。アマゾンの感想とか見ると、ノベライズ以前にまず小説としてなっとらんみたいな辛辣な意見も伺えるものの、個人的にはこの描線の乱れやデッサンの狂いが夢とも現実ともつかない物語世界の雰囲気を引き立ててい、こうなったら話の筋を理解しようなんて堅いことは言わず、このワケワカラン世界にどっぷりと浸かるが吉、というものでしょう。
物語は戦時中の怪しい実験フィルムを目にしたキ印女ママが自分の娘も含めてヤバすぎる脳手術に着手、やがて現実と夢の境界は乱れて、「向こう」から何かがやってくる、――とまあ、簡単にまとめてしまえばそんな「かんじ」の話なんですが、いかんせん本作のノベライズ版ではシーンが断片断片に途切れているため、話の全体を追いかけることは甚だ難しく、それがまた北野式にシュールな文体で綴られていくものですから、シーンのひとつひとつでは何が起きているのかよく判るんだけど、全体を通して見ると何が何だか、という結構ゆえ、大まじめに話の筋を子細に追いかけようとするのは御法度です。
それでも上にも述べた通り、各シーンの夢とも現実ともつかない異様な描写はさすがで、北野ワールドならでは不可解なオノマトペで粘膜質、粘液質なイヤらしさを盛り上げれば、夢の中で夢を見ているような、描線が曖昧な光の渦の中を漂っているような文体で語られる数々の怪異の描写も素晴らしい。
映画の予告篇やあらすじ紹介などを見ていると、キ印ママに手術を施された娘が怪異の中心となって物語を引っかき回していくような展開かと思われるのですが、本作ノベライズ版では他にも件の脳手術を受けた人物がいて、これが「向こう」の存在を引き寄せる大きな鍵を握っていたりと、映画のあらすじから想起される物語との乖離もあったりして、果たしてどこまで忠実に映画を小説へと移し替えているのかは判然しません。なので、物語の評価はあくまで保留としておきます。
マトモなホラーとして読むと、北野世界のシュールさが際だった風格ゆえやや戸惑いを感じてしまうゆえ、角川ホラーのファンにはやや取り扱い注意、と言うことで。