久しぶりの牧野氏の小説。巻末にある広告には「病の世紀」を「牧野ホラーこれぞ最高傑作!」とあるものの、個人的には「偏執の芳香」、「MOUSE」「忌まわしい匣」がお気に入りの自分としては、牧野ワールドといえば、悪夢のビジョンと電波語りと言葉の呪力がキモなわけで、そうしたところでは本作、主人公とヒロインの名前からも明かな通り、言葉の呪力に焦点を合わせた愉しみどころと、そこから生じる悪夢の描写が際立った風格は最高にツボでした。
物語は、モジモジ君が不思議系美女とともに、悪夢を支配するワルと闘う、――みたいにまとめられるものの、そうした物語の外枠はとりあえずどうでも良くて、本作では執拗に描かれる悪夢の情景を語感へビンビンに訴える文体によって活写しているところに注目で、「偏執の芳香」のラストに出現する幻視のビジョンが鮮烈な印象を残した氏らしく、ここでもレインと呼ばれるワルとの闘いのシーンなど、確かに文章を読んでいるのに頭ン中には鮮明な悪夢の映像がハッキリと現出する、という牧野小説の不可思議を体験出來ます。
ヒロインの不思議チャンとモジモジ君との関係が冒頭から明確に描かれていないため、もしかしてこれって続きもの? みたいな印象を抱いてしまうものの、ワルに操られる雑魚が物語を掻き回し、拷問も交えておぞましいコロシを重ねていくつれ、そうした設定の緩さなどはマッタク気にしなくなってしまい、あとはもう、タイトル通りに熱出した時に見る悪夢のような鮮烈ビジョンの連なりに眩暈を感じながら、後は最後までイッキ読み出來てしまいます。
また、キメ台詞によって世界がイッキに反転する見せ所など「MOUSE」にも通じる趣向も素晴らしく、世界観については「MOUSE」ほど明快ではないものの、「病の世紀」や「偏執の芳香」同様、安易なオカルトに流れずに、科学的な説明も交えつつ、ワルの悪巧みについてはシッカリと説明をしているあたりにも牧野氏のこだわりが十二分に感じられます。
個人的には久しぶりの牧野ワールド体験だったわけですが、「偏執の芳香」当時に比較すると、文体はより疾走感をともない、幻視の描写も平易にして簡潔でありながら、しっかりと脳に効いてくるという呪力はよりいっそう力を増しているような気がします。
続編があるかどうかについては、最後の終わり方からすると微妙、なんですが、少なくともヒロインとワルの対決という構図では十分アリだと思うし、ヒロイン一族の過去の曰くも興味深く、シリーズものとして続編があるならば是非、と期待してしまいます。
「偏執の芳香」や「MOUSE」が好み、という牧野ファンであれば、その超絶幻視に酩酊すること請け合いという逸品で、かなり愉しめるのではないでしょうか。オススメ、でしょう。