一応、島田莊司推理小説賞受賞レポート・小ネタ 其の四となるエントリなのですが、長すぎるので本題のみをタイトルに掲げてみました。
さて、四日に島田荘司賞受賞作が発表され、台湾各紙はその翌日五日の朝刊で今回の受賞作と御大のコメントをいっせいに報じました。今回はその中でも大手新聞紙である「聯合報」の記事を紹介してみたいと思います。台湾から持ち帰ったものをスキャンしてみました。ご覧下さい。
記事の内容としては、今回の受賞作は台湾、中国、タイ、日本の四カ国で刊行されること、そして受賞作である「虚擬街頭漂流記」の作者である寵物先生のプロフィールなどが書かれています。で、ここからが今回のエントリの本題なのですが、御大が受賞作も含めた入賞三作の作風について語っているところがありまして、それに曰く、不藍燈氏の「快遞幸福不是我的工作」は赤川次郎を思わせる軽妙な味のミステリであり、受賞作となった「虚擬街頭漂流記」については「似た作家は日本にはいない(在日本找不到相似的作家)」と述べるとともに、新聞の見出しにもある通り、寵物先生は台湾のアラン・ポーだと絶賛しています。
さて、最後に残る林斯諺氏の「冰鏡莊殺人事件」については、「トリックの難度はもっとも高い(詭計的難度更強)」とし、その作風から加賀美雅之を彷彿とさせる、――と語っています。
自分の知る限り、加賀美氏の作品はいまだ台湾では刊行されていない筈で、それなのに大手新聞紙である聯合報の記事に、いかにも唐突なかたちで台湾の一般読者には認知されていないであろう加賀美雅之氏の名前が出てくることに違和感を憶えた方も少なくないのではないでしょうか。
他紙や授賞式のインタビューで御大は確か、「冰鏡莊殺人事件」については綾辻氏や二階堂氏の名前を挙げていた筈で、実際、自分もこの作品は綾辻氏の「時計館」や二階堂氏の「人狼城」を彷彿とさせる傑作だと感じた次第なのですが、……そこに加賀美氏の名前が唐突に出てきたということには、何か深い理由があるに違いありません。
ただ実を言えば、作品こそ未だ翻訳刊行されていないものの、その様々なエピソードから、加賀美氏は、台湾ミステリ界においてはその名前を知らない人はいない、というほどの有名人でもあります。そうした理由からも聯合報の記事がここで敢えて氏の名前のみを掲載しているのもこのような事情を知る者にとっては納得至極なわけですが、……とここまで書いてはみたものの、何しろこのエントリを書いている人物というのが「通りすがり」氏からわざわざ匿名で「管理人氏がどれだけ台湾のミステリ事情に詳しいのか知らないけど」なんて粘着質なコメントをいただいてしまうようなプチブロガーゆえ(爆)、この記事の信憑性だって甚だ怪しいのでは、と思われる方が大勢でありましょう。スキャンした新聞記事だけでは「どうせこれだってこいつがフォトショで書き換えたんだろ」なんて言われてしまうやもしれないので、ウェブ上にある聯合報の記事にもリンクを張っておくことにします。
――と、ここからはちょっと真面目な話。一方、台湾から大陸に目を転じると、コード型本格からの逸脱が見られれる台湾ミステリとは対照的に、現在の大陸ミステリでは、カーやヴァン・ダインをはじめとした古典も含めコード型本格の人気は頗る高く、自分のようなボンクラにまで、加賀美氏の作品については大陸の評論家から問い合わせがあったりするほどです。あくまで個人的な感想ではあるのですが、氏の作風は、白髪三千丈的な表現を良しとする大陸の中国語とも親和性が高いと思うし、日本のエージェントが積極的に氏の作品の紹介をしてくれれば、今の大陸でかなりの評価を得るような気がするのですが、いかがでしょう。
もっともこれ以上大陸のミステリについて何かを語ると、まだぞろ「通りすがり」氏から「管理人氏がどれだけ大陸のミステリ事情に詳しいのか知らないけどさあ」なんてネチっこいコメントをいただいてしまいそうな気がするのでこれくらいにしておきます。
[09/14/09: 追記] 某氏よりあの二つの事件はタブーなのだからヤバい、というアドバイスをいただいたので削除いたしました。