凄すぎです。あらゆる意味で。
まずこのジャケ。めちゃくちゃです。本屋で平積みになっているのを見つけて思わず手にとってしまったんですけど、帶の煽り文句も法月綸太郎の手になるもので、曰わく「ディクスン・カーの間合いと、大阪圭吉の太刀筋」。確かにカーの香りはします。島田莊司的とも、最近の二階堂黎人的ともいっていいいでしょう。ただ大阪圭吉が引き合いに出されているのがちょっと分かりませんでした。もう一度、創元推理の「とむらい機關車」を讀み返してみないといけませんねえ。
実は霞流一の小説はこれが初めてでして、今までずっとノーマークでした。法月綸太郎の煽り文句がなかったら、きっと買わなかったと思います。
何かあらゆる意味で過剩な小説でして、ちょっと眩暈がしてしまいました。まず殺人の見立てが凄い。ミイラのように全身を覆う白い紙だの、口に突っ込まれた矢印形の金屬棒だの、はたまた真っ黒焦げの死體に、髮に金色のペンキをぶちまけられた死體だの、とにかく何というか、やりすぎ。何か死體の装飾はこの通り完全に狂っているんですけど、探偵や警察も含めた周囲の人たちは何か妙に陽氣な人たちばかりで、物語全体に陰慘な雰圍氣はありません。羊頭男のモノクロ写真とか、呪いの儀式に関する蘊蓄などが、そんな明るい物語の進み具合に歪んだ影を落としていて、それがまた獨特の世界觀となって迫ってきます。さらに頭が混乱してしまうのが、田中啓文を髣髴とさせる苦しい駄洒落というか冗談で、ラベンダーをもじったと思われる「ダベンダー」という雜誌銘だったり、犬の般若面がワンニャで、そのほかにもパンダのパンニャだの象のエレファンニャだのズーム淫夢だのといった語感には頭がクラクラしてしまいましたよ。
事件が立て續けに三つ起きるのですけども、それぞれがカーばりの謎めいた事件です。それらは後半の謎解きで明らかになるのですけど、見せ場はそのあと。法月も煽っているようにまさに消去法の美學が炸裂し、容疑者がひとり、また一人と限定されていき、最後に眞犯人が名指しされます。うーん、これはいいですねえ。何となくこれが犯人の手がかりじゃないのかなあ、と思ってはいたのですけども、見立て殺人の派手派手しさに目がいってしまって、全然そこまで頭が回りませんでしたよ。
キャラもたっているし、本格ミステリとしては非常にうまくまとまった佳作だと思います。おすすめ。