有栖川有栖にとっては初めての短編集となる本作は、色々な意味で興味深い一册であります。
本作に収録されている短編は全部で六つ。しかしダイイングメッセージ祭りとでもいいたいくらいに、この謎にこだわったものが多い。例えば「動物園の暗号」はタイトルにもある通り、動物の漢字が並んだ不可解なメモの謎を解くものなのだけど、かなり強引、というかそこが面白い。
また「屋根裏の散歩者」もまた死体が殘していたメモの意味するところを探っていくのだけども、これも眞相が分かってみれば妙に莫迦莫迦しくて笑えます。
「紅い稻妻」は前の二作のような稚気はなく、正統的なミステリに纏めています。犯人が明らかになったあと、火村が口にする一言が痛烈な皮肉を含んでいて、これがいい。
個人的なお氣に入りはタイトルにもなっている「ロシア紅茶の謎」。紅茶にどうやって毒をいれたのかを推理していくのですけども、この方法が凄い、というか、火村もいっているけど、こんな方法で毒を入れてしまう犯人の度胸に驚き。
本作に収録されている短編はそれぞれ初期の有栖川有栖らしい稚気溢れた作品に仕上がっていて、なかなか愉しめます。そうそう、このころの有栖川有栖の短編って、オチのつけかたが洒落ていました。「ブラジル蝶の謎」に収録されていた「鍵」とか、眞相が明らかになったあとの阿呆らしさが良かったりして。本作でいえば、「動物園の暗号」で、動物暗号が意味するものがあきらかにあったあと、ある二つの要素が偶然とはいえ、ひとつの動物種を指し示していることを暗示して終わるのですけど、この纏め方とかうまいなあ、と思う譯です。
どうも最近のやつは、確かに正當的なミステリに眞っ向勝負で挑んでいるのは分かるものの(「スイス時計の謎」とか)、この頃にあったような茶目っ気がなくなっているような氣がするのです。贅肉をそぎ落としていって、本格ミステリのエッセンスのみで作品を仕上げようとする気概はこちらにもひしひしと傳わってくるんですけどもねえ。自分はこのあたりの欲求不滿を氷川透や石持浅海の作品で滿たしているのかもしれません。