昨日の「奥能登殺人遊戯」に續いてまたまた草野センセの徳間文庫の一冊。「奥能登殺人遊戯」がベタベタな旅情ミステリフウの結構に細やかな仕掛けを凝らしたなかなかの一作であったので、これまた旅情ものを連想させる、――というか物語をマンマ表したタイトルに結構期待してしまったのですけど、……結論からいうと本作はちょっとアレ(苦笑)。
物語はどうやらシリーズものの一作らしく、警視庁の嘱託探偵が主人公。冒頭、イキナリ探偵の紹介から始まり、事務所でマッタリしていたところを女子大生が訪ねてくるのですけど、どうやらこの女子大生というのが過去、探偵が事件に巻き込まれたところを助けてあげた娘っ子の様子。で、この女子大生を助手に採用して今回の事件に挑むという物語です。
事件の方は、吉野桜と過激なヘア・ヌードのセットでエロい写真を撮ってやろうと、三流エロ雑誌のカメラマンどもが吉野を訪ねていくも、撮影をしようと画策していた桜の場所はどうにも格式があり過ぎて、エロい写真などとても撮れる雰囲気ではない。そこで一計を案じてゲリラ的に胸チラだけでもいこうじゃないの、なんてノリで撮影を考えていたところ、件のカメラマンがかつて職場で一緒だった女と旅館で再会、――とくればフツーはこの二人が恋人でちょっとしたロマンスがあったりして、という展開が定番でしょう。
しかし本作ではこれがまったく違ってい、何と、このカメラマンはかつて職場でこの女をレイプしたという前科があり、さらには会社の金を使い込むは不倫はするはとやり放題。こうした素行の悪さを見かねた会社は彼を首にするも、こうしてフリーで三流エロ雑誌の仕事をこなしている、……みたいな男のゲスな経歴が明かされていきます。
で、このゲスぶりはかつて陵辱した女との再会で再び燃え上がり、女に情交を迫るものの当然女はノーサンキュー。だったら金をよこせ、そうしないと吉野中にテメえがレイプされた過去をバラしてやると脅迫にかかります。
で、期待通りにこの後、男は死んでしまうのですが、ベロンベロンに酔っぱらったところを突き飛ばされて転落死、という情けない死に方はアッサリ事故で片付くかと思いきや、このトンと突き飛ばした娘が件のレイプ被害者の娘だったところから話がこじれてくる。さらにはこの転落死の前に男には毒が盛られていたことが明らかとなり、転落死から毒殺へと轉じた事件の謎に探偵が挑むのだが、……ってこれだけでは終わらないのが草野センセのキワモノミステリでありまして(爆)、転落死が事故だ過失致死だと揉めている間にも、吉野桜とのセッションでエロ写真を撮ろうとしていた連中の一人も崖から落ちてご臨終という破格の展開が待ちかまえています。さらには過去の女の死も絡めて、容疑者は絞られていくのだが……。
これが「奥能登殺人遊戯」の場合、中盤以降である人物が容疑者として浮かび上がり、それを登場人物の連關を一部隠蔽することで事件の構図の見せ方に仕掛けを凝らしてあったりしたわけですけど、本作ではそうした現代本格にも通じる仕掛けは一切なし。容疑者が中盤で絞られたまま、あとは過去の事件との関連が語られていき、登場人物たちの関係が明かされてそのまま真相喝破というヌルい展開に、草野流の仕掛けを期待していた自分は完全に肩すかし。
さらに付け加えると、過去を洗い出していくプロセスもただ聞き込みをダラダラと続けるだけで、このあたりのサスペンスもなければ、シーンのサンプリングをして文章の「効率化」をはかってみせるところもかなりアレ。例えば聞き込みで菓子店を訪問した時のシーンはこんなかんじ。
……小綺麗な店で、菓子や飲物類を店内狭しと並べている。
「御免ください」
「はーい」
と返事して、ガラスレースの向こうから中年の女主人が出てきた。
このあと、別の煙草屋を聞き込みにいくシーンに至っては、
店はその一軒だけで、あとの角は事務所ふうのビルだけだ。
店番はいない。
歩いて行って、
「御免ください」
と、声をかけた。
「ハーイ」
返事して、中年過ぎくらいの女が出てきた。女主人であろう。
と、こんな具合なので、あまり過激さを期待するとかなりアレなゆえ、個人的には「奥能登殺人遊戯」と対蹠しつつ、本作のようなユルい旅情ミステリの展開にどのような仕掛けを凝らせば現代本格としても通用しそうな「奥能登殺人遊戯」のような作品に仕上がるのか、というフウにある種の反面教師と讀みをオススメしたいと思います。