創元推理の「日常の謎」、そして連作短篇というキーワードでいけば、その古典として本作の名前を取り敢えず挙げておかなければいけないでしょう。といっても、北村薫もこの作品に影響されてあのような形式のミステリを書き始めた譯ではなく、本作は當に突然変異的に現れた佳作であります。
自分もこの本が出るまで、小沼丹なんて知りませんでしたよ。
この「黒いハンカチ」が世に出たのは解説によると1958年。もうずっと昔の話。それでもこの前の年に仁木悦子の「猫は知っていた」が乱歩賞を受賞し、この年にはさらに松本清張が「点と線」を出していた譯で、ミステリブームのさなかに出版されていたことは憶えておくべきでしょう。
そのような古典でありつつも、探偵の人物造型や物語の展開、事件の樣相など、すべてが創元推理の「日常の謎」系に通じるものであることが不思議。それにこの探偵、ニシ・アズマなんて小柄の眼鏡っ子(といっても女教師)だったりと、妙に現代的なところが何とも微笑ましく、現代のミステリマニアを納得させるだけの仕掛けもない普通のミステリなんですけど、結構愉しみながら讀んでしまいました。人が死ぬ事件もないことはないのですけど、そのほとんどは窃盗とか、血腥い出來事とは無縁の物語で、息抜きに読むにはいいのでは。
それでも自分の場合、お氣に入りは殺人事件を扱った最後の「犬」という短篇だったりして。道端に落ちていた人間の手首とそのあとに発見された手首のない死體との関連は、という謎で、トリック自體は古典的で安易なもの乍ら、探偵のニシ・アズマを中心としたキャラが妙に愉しく、陰慘な雰圍氣は皆無。
文体も作家自身が講談ふうに話を始める昔っぽいもので、小説の體裁自體が釀し出す古典の雰圍氣と、現代のマニアにも(というか現代にこそ)通じる人物造型とのギャップが素晴らしい佳作であります。
これ、本当に面白かったです。創元推理文庫、グッジョブ!ニシ・アズマ女史の設定とか、現代の新本格系の作品にも通じるところがありますね。
take_14さん、こんにちは。
そうなんですよ、凄く地味な作品なんですけど、とにかく人物造型とか、登場人物たちの何処かとぼけたような、和やかな雰囲気とかが結構好きなんですよねえ。當事、どのような評價を受けていたのかが氣になるところです。
黒いハンカチ 小沼丹
黒いハンカチ 小沼丹 創元推理文庫 初読
A女学院の3階屋根裏部屋が、彼女の気に入っていた。
ニシ女史はここで絵を描いたり、おしゃべりをしたりもするのだが
衛生室の古ベッ…