未讀でした。タイトルの曖昧さも含めて何だか微妙な作品では、という気がしていたのですけどもその予想はある意味的中(苦笑)、――しかし普通小説を装った連城ミステリとしてではなく、ごくごくフツーの小説の最後に驚きの眞相を開陳してみせる作品として讀めば、なかなかに愉しめる作品です。
ただ本作にはボーナストラックとして「ヒロインへの招待状」が収録されていて、こちらは連城ミステリの短編としてもかなり強烈。その意味では表題作は軽く読み流しつつ、彼女たちの後日談に纏めながらも上質のミステリとして思う存分力を発揮してみせた「ヒロインへの招待状」を目当てに本作をゲットするというのも十分アリだと思います。
表題作「誰かヒロイン」は、要するにスイーツな女友達三人が女子高生時代から憧れているテニスの王子様と結婚するべく鍔迫り合いを繰り広げる、というもの。ここに友達のパパとの不倫や、未練タラタラのストーカー男など、連城ミステリでは定番となっているダメ男を配してイタ過ぎる操り劇を大展開させるという結構でありまして、仲良しだけどちょっと小狡いことを頭ン中では考えているスイーツ娘たちが色々と小さな奸計を凝らしてみせるところは期待通りながら、本作の場合、例えばある登場人物の一言で今までの物語世界が反轉してしまうような絶妙な仕掛けが希薄で、中期以降の長編に見られる連城ミステリならではのどんでん返しの連続技が控えめであるところがかなり不満。
またスイーツ娘どもの脳内モノローグが要所要所でいちいち流されるところも鬱陶しく、自分のようなオジさんの本讀みにある種の苦行を強いる構成はちょっとアレ。「何か、他の返答を聞きたかったのにと悔やんでた私。」「そう答えていた怖い私。」――なんてかんじに「私。」で体言止めを見せる、その独善的な一人語りには背中がムズムズしてしまいます。
とはいえ、例えばモデルの春香もコラムでこうした「私。」どめの癖を時折見せていたことを考えるとまア、いっか、と無理矢理に納得させながら(爆)讀み進めていくと、その二昔前のトレンディドラマ的な展開の中から、頭ひとつ抜けて一人の女性がリード、裕木奈江のような、可愛いオジさんキラーだけどちょっと天然入ってる、みたいな件のスイーツ女の大勝利に終わるかと思いきや、最後の最後、フツーの本讀みだったらかなり驚くであろう操りの眞相が明かされます。
ただこのラストは連城ミステリを読み慣れたファンであれば、その手の内を殆ど見透かしてしまうような気がするのですが、如何でしょう。個人的にはスイーツ娘どもの挙措に苦笑いするしかないユーモアを添えつつ、それが最後の最後に唖然とするような空しさへと転じるラストは痛快で、前半はそのスイーツ脳をトレースした展開に頭を抱えてしまったものの、後半は結構、愉しむことが出來ました。
で、いよいよ「ヒロインへの招待状」になる譯ですけども、登場人物たちは件のスイーツ娘といえども、今回は蘭子が謎解きでもしそうな怪異も交えた「ある事件」に彼女たちが巻き込まれる、――というお話です。
「誰かヒロイン」の後日談的な始まりを見せるものの、彼女たちが謎めいた招待状に導かれて奇妙な老婆と出会うところから俄然、ミステリ風味を増してきます。孫の死を哀しむ老婆と、その孫の幽霊を電車ン中で見たのみならず、何と、心霊写真まで撮ってしまったという怪異にくわえて、件の結婚式でもまた違った幽霊が御登場、――と、二つのベクトルを平行させながら奇妙な事件の顛末が描かれていきます。
そして、最後に明らかにされる怪異の眞相と、彼女たちが巻き込まれることになった事件の謎解きが行われる譯ですが、「操り」の首謀者は予想出來つつも、その意図については、かなり想像の斜め上を行くもので、特に、件の人物が彼女たちに「証人として目をつけた」その理由の、反轉の構図を際立たせた眞相には口アングリ。
また「操り」の視点から見ると、ある種の偶然がたったひとつの異分子をこの構図の中に紛れ込ませ、それが犯人の慢心を引き起こし、その結果として奸計が見破られてしまうという推理の流れが、スイーツ娘のちょっとした気付きから繙かれていく展開も秀逸です。登場人物たちの心の綾に誤導を凝らし、たった一言で構図を反轉させてしまう仕掛けとはやや異なり、幽霊騒動という怪異を重ねながら、過去の事件を解き明かしていく結構など、オーソドックスなミステリとしての風格も存分に感じられる好編といえるのではないでしょうか。