コンプレックスを持った娘っ子が主人公で町の事件に巻き込まれる、というミステリーYA!の指定フォーマットに従った結構ながら、個人的には絶妙な「寸止め」小説として堪能しました。
物語は、名前にコンプレックスを持った娘っ子が美人系の同級生から譯ありな手紙を受け取り、タイムトリップが出來ると噂の祠を目指すことに。ヒーヒー言いながらもどうにか目的地まで辿り着くと校内でもチョー有名な先輩が倒れている。何でも先輩は未来に飛んで、川の橋が決壊することや、学校の生徒が殺されることを見てきたというのだが果たして、……という話。
娘っ子が祠を目指すところから、青春小説プラスタイムトラベルという王道路線を突き進むのかと思いきやそういう展開には至らずに、先輩が見てきた未来の予言をトレースするように、殺人予告の不気味な電話が生徒の家にかかってきて、――というフウに流れていくところなど、タイムトラベルネタを仄めかしつつ、シーンの要所要所でそうした展開へと分岐出來るのに敢えてそうした方向へと進まないところに、ではイライラするかというと、不思議とそういうもどかしさは皆無。このあたりには恐らく娘っ子のキャラ立ちや、彼女の一番の理解者である伯父さんの存在など、物語全体がやさしいトーンで統一されているところが大きいように思います。
先輩の預言で学校中は大混乱、マスコミまでもが町に押しかけての大騒ぎとなってしまうのですけど、そんななか、件の先輩のカノジョが一命は取り留めたものの、ついに第一の犠牲者となってしまう。果たして犯人は、……というところに、主人公の娘っ子を登山に誘った同級生の兄イの怪しい振る舞いや、失踪したインコの行方などを絡めて、物語は仄かなミステリ風味を漂わせつつ進んでいきます。
いい人の伯父さんがなかなか秀逸なキャラを極めておりまして、娘っ子に珍妙な謎々を投げかけたり、さりげなく件の預言事件の顛末を推理する上でのヒントを提示したりするのですけど、この伯父さんが最後にはベット・ディテクティブを披露するのかと期待していると、これまたチと予想外の展開へと至ります。
預言の眞相に關しては何となく予想出來たものとはいえ、本作の力点は、事件の眞相解明そのものよりも、この事件に關わることによって娘っ子を含めた登場人物たちが心の奥に抱えた疵を癒していくところに置かれており、まずカノジョの殺傷事件の眞相開示に始まり、そこへさりげない誤導として機能していたいくつかの事柄が繙かれていく過程で、主人公の娘っ子と山登りの話を持ちかけた同級生とが友情の絆を深めていくという展開も盤石です。
恋愛風味こそ薄味なものの、友人との絆、そして肉親との別れを経て主人公が成長していく過程を描いた、まさにミステリーYA!というレーベルに期待する風格をイッパイに体現してみせた佳作でしょう。謎解きやタイムトリップネタを基軸にした物語を期待せず、むしろそうした定番の結構からの距離感をさぐりつつ、娘っ子の成長を追いかけていく讀みをオススメしたいと思います。