第十五回角川ホラー小説大賞の長編賞受賞作。何でも「『バトル・ロワイヤル』以来、選考会でもっとも物議を醸した問題作!」とのことなのですけど、衝撃度で競うというよりは、ある種の定式をトレースした物語の流れの中で不快感をネットリと盛り上げていくような風格で、ホラーに何を求めるかで評価が分かれる作品のような気がします。
物語は、巨漢でDVな弟の殺害を決意した兄イたちが、村はずれに棲んでいる河童どもにコロシを依頼するも、予想外のアクシデントが次々と發生して、……という話。
物語世界としては、戦前というか戦中というか、憲兵どもは赤狩りをやりたい放題拷問三昧という、かつての昭和を彷彿させる時代を映しながらも、そこにアウトサイダーの存在として河童という異形を絡めたところが秀逸です。作中の要所要所で河童どもの價値觀と人間のそれとの違いが明らかにされ、それが物語をトンデモない方向へと引っ張っていくのですけども、ときに憲兵どもの常軌を逸したキ印ぶりが河童の鬼畜と照応してしまうところなど、昭和を想起させる時代背景に歪みを添えているところが印象的。
ただ「ラストまで予測不可!」という惹句は些か大袈裟で、最後にこういう展開になるのでは、というのは中盤あたりで殆どの讀者が予測できるのではないでしょうか。寧ろ本作は、そうした物語の結構に目を凝らすよりも、例えば憲兵野郎が娘っ子に施すチープでエロい拷問シーンや、河童の異常行動がもたらすキモチ悪い場面など、作者のいう「おぞましいまでのグロテスク・スプラッター・ホラー」としての風格を堪能するのが吉、でしょう。
それでも自分のようなロートルだと、憲兵と美少女のエログロとなれば丸尾末広などの妖しくも美しい、またエロくてシュールな物語世界を知ってしまっている読者が大半ではないかと推察されるゆえ、そうした丸尾ワールドと比較すると本作ではシュールさは控えめに、ある種の予測可能な樣式を重視している作風ゆえ、年代によってはこうしたグロさにもすでに耐性が出來ていて、キモチ悪いというよりは寧ろそうしたスプラッターをユーモラスなものと感じてしまうカモ、――というか、実際に自分がそうだったのですが(爆)。
またグロいといっても平山センセの「SINKER」に比べれば、本作のスプラッターは子守歌のような優しさに溢れた仕上がりでありますから、このあたりにオエッとなるかどうかというのも、讀者の世代によるのではという気がします。
惹句でクドいくらいにアジテートしているグロテスク、スプラッターといった風格よりも、寧ろ上に述べたような河童という異形と憲兵のような人間の狂氣を並べつつ物語がイヤーな方向へと轉がっていく展開が個人的にはツボだったのですけど、それでも「便所女」としてネチっこく描かれる少女が中盤以降の展開にはマッタク絡んでこなかったりといった小説としての結構にやや疑問に感じられるゆえ、読後感はやや微妙、……なのですけど、選考委員の絶贊ぶりを讀むにつけ、河童も含めた作中世界には樣々なメタファーが鏤められていて自分はそれらを見落としているがゆえにあんまりノれなかったのカモ、……というところも感じられます。なので、ここはプロの精緻な讀みに目を通した後に再讀してみたいと思います。