例の噂になっていたビッグ・イベントが四月の二日にようやく各メディアで正式發表されたので、このブログでも取り上げておきたいと思います。この「島田莊司推理小説賞」を主催する皇冠文化は御大の作品の殆どを台湾において翻訳出版している出版社で、受賞作は台湾のみならず、中国、日本、タイで同時に出版されるという、日本のミステリ賞でもありえないような大規模のもの。
自分が確認出來た限りでは、中國都会時報と中央通訊社での記事があるのですけど、中央通訊社の方はリンク切れになっているし、中國都会時報の方が選考方法などの詳細についても語られているので、こちらの記事をざっと日本語にしてみました。原文はこちら。
まさに空前の小説賞 皇冠と日本、大陸、タイの出版社がタッグを組んで開催される「島田荘司推理小説賞」
[2008/4/3 上午 07:23:10] 「私は綾辻行人のような人を見つけるため台湾にやってきたのです」――日本の本格ミステリ界の重鎮、島田荘司が二〇〇七四月に初めて訪台された時、メディアと座談会の參加者に向けて語った言葉である。台湾に滞在したのは一週間ほどとはいえ、島田先生は台湾での中国語による本格ミステリの創作について大いに關心を寄せられ、帰国した後も台湾のミステリ界の発展を讃えるとともに、日本の出版界が台湾における中国語の創作に興味を持たれるよう尽力してきた。そして島田先生の初めての訪台から一年後、皇冠文化集團と島田先生は遂にかつての宣言を実現させることを決定した。
ここ最近、台湾ではミステリに対するブームが卷きおこりつつある。しかし多くの日本や欧米の作品が翻訳され、ファンを獲得してきているとはいえ、中国語による本格ミステリの創作はそれに比較するとあまりに少ないのが現状である。そこで皇冠はより多くの中国語による創作が行われるよう勵ますとともに、新たな書き手を発掘し、一般の読者層においてもミステリに対する議論が行われるよう、今回特別に島田先生の同意と支持を得て、「島田荘司推理小説賞」を開催する運びとなった。
国籍は問わず、ただ独立、完結した作品で、なおかつ国内外の媒体に發表したものでなければいずれも応募の資格がある。作品は島田先生の「本格ミステリーの定義」を満たしており、八万字から十五万字の長編小説であること、そのほかにあらすじや小説の結構についての詳細、また自分が応募作品について優れていると信じる点についてを五千字以内に纏めて添付する必要がある。
選考方法は三段階に分かれる。まずはじめに主催者である皇冠文化による一次選考によって十編が選ばれ、その中から国内推理小説界の重鎮、島崎博先生が選考委員として三編を選出する。そしてこの最終選考に残った三編の中から島田先生が受賞作を選び出すことになる。島田先生は最終選考委員としての他にも、この賞の選考方法などについての参考になるためにと、「本格ミステリーの定義について」、「華文の本格ミステリー創作に期待するもの」の二つの文章を書いている。
賞金はないとはいえ、受賞作は「日本のゴッド・オブ・ミステリー」島田荘司によって台湾、大陸、日本、タイの四ケ国で同時出版されることになる。特に中国語で書かれた作品が「アジアのミステリー王国」である日本で翻訳出版されるということは滅多にないことであり、日本の文藝春秋がすぐさま協賛の意志を示したことは、この賞が台湾のみならず日本においても將に時代を超えた空前のものであることを示している。また皇冠は本來の皇冠大衆小説賞を一年間見送り、この国境を超えた小説賞の成功のために全力を傾けることになる。
第一回「島田荘司推理小説賞」は二〇〇九年二月二十八日を締め切りとし、二〇〇九年の九月に行われる授賞式に合わせて訪台された島田先生自らが賞の授受を行う。詳細については皇冠文化集團のサイト www.crown.com.tw を参照のこと。
で、なかなか小説を書いても發表の場に惠まれてこなかった台湾のミステリ界では、この賞の創設に盛り上がりまくっているのですけども、台湾の某掲示板を見ていたら「何で台湾の賞なのに日本人の作家の名前がついているかなー」とか「哀しいかな、台湾は文化植民地」「本土推理をもっと考えなくちゃ」なんてクダらない「疑問」で頭がイッパイになっているような小姐を發見してしまいました。
個人的にまず言いたいのは、この賞は台湾の出版社である皇冠文化が主催しているとはいえ、その対象は台湾人だけではないというところでありまして、中国語で書かれたミステリ、とあるところに注目、でしょう。ですから中国人だろうが、日本や欧米在住の華僑であれば応募してくる可能性も出てくる筈で、実際、この賞は翻訳出版される台湾、中国、日本、タイのみならず、アメリカやイタリアのメディアを通じても發表される予定があるというし、そうなると、「本土推理」だの何だのなんてことに拘泥している暇はない譯です。
それに日本人の名前を冠した賞なんて、――と溜息をついてみせているところについても、上の報道によれば、この賞には島崎御大も大々的に関わられているということだし、個人的には寧ろこの賞を台湾の本土推理を盛り上げ世界にアピールしていく為の絶好の機会として大いに利用してやろう、くらいの「したたかさ」を台湾人には持ってもらいたいと感じる次第ですよ、……というか、大陸の創作者はこの賞についてそう考えてるに違いない、と想像するのですが如何でしょう。
さらに言えばこの「疑問小姐」、台湾は文化植民地だとか欧米や日本の真似っ子じゃない本土推理を、なんて言葉を口にして劣等感をビンビンに示しているように感じられるものの、そもそもが台湾ミステリの作品に目を通して、そこに台湾ミステリならではの個性を感じられないという鈍感ぶりは相當に問題で、「本土推理」が盛り上がらないとか聲高に主張する前に、そもそも自分の「讀み」の力のなさを嘆くのがまず先ではないかなア、なんて個人的には感じてしまいます。
まあ、台湾の本土推理の発展についてはまだまだ色々と言いたいことがあるのですけど、機會があったらまた書くかもしれません。とりあえず、今、日本人として言えることは、台湾人や中国人が羨ましい、と言うことでしょうか(爆)。将来、この賞が発展した曉には、国境とともに言語をも超えて、中国語のみならず日本語やタイ語での投稿を認める、なんてことになったら、――なんてことを夢想してしまうのでありました。