「赫い月照」を讀んでから第四回ミステリ大賞の候補作について書いてきたのですけど、今日とりあげる本作、実は発売した時に即買いしてすでに讀み終えていました。確かに傑作で、自分も見事、ヤラれたクチです。あらためて讀み返してみると、色々とヒントは竝べられていたのですけど、最初のシーンからして完全に先入観を持ってしまい(というか、普通ああいうシーンがあったら、まさかそんなふうだろうとは考えないですよねえ?)そのまま疑うこともなく讀み進めてしまいましたよ、……って眞相を限りなく暈かして書いているので、未讀の方には何がならやらサッパリでしょうけども、スミマセン。
思えば歌野氏の作品って、こういう大きな仕掛けがあってもバレバレだったパターンが多かったように思うんですよ。例えば「ブードゥー・チャイルド」。讀んでいる途中で完璧に分かってしまいました。これは結構仕掛けに気がついた人が多かったのではないでしょうか。しかし本作の場合は見事にやられてしまいましたよ。
ただ完璧な作品かというと、実は大きな欠點もありまして、これについては第四回ミステリ大賞の選評において我孫子氏が述べているとおりで、現在と過去の出來事の繋がりがいまひとつパッとしていないところが擧げられます。これがもう少し繋がっていて、例えば過去、主人公が関わった事件が現在の登場人物とリンクしていたりすると、もっと構成が美しくなったと思うのですけども、ここまで求めてしまうのは欲張りすぎでしょうかねえ。例えば過去の事件があったからこそ、現在の事件が起こったことが明らかになる、みたいな。
もし乾くるみが同じネタでこういう小説を書いたら、このあたりをようく考えて、もっといい仕事をしてくれたと思うのですけど如何。飜って乾氏の本作に対する選評を讀むと、
『葉桜の季節に君を想うということ』は本格ミステリの可能性を拡げた作品であり、本作が本格ミステリ大賞を受賞することが本格ミステリ界全体にプラスに作用すると思って票を投じることに決めた。
……って、いや、「本格ミステリの可能性を拡げた」という言葉は氏の「イニシエーション・ラブ」とかに与えられるべき言葉ですってば。しかし今回の本格ミステリ大賞の候補作のリストに氏の作品を見つけることが出來なくてちょっと残念、というか、まあ、この會における「本格ミステリ」の定義が違うのだから仕方がないのかなあ、と思いつつ、第五回の候補作をよく眺めてみると、横山秀夫の「臨場」とか入っているし。この作品、自分は未讀なんですけど、この會が認めているような「本格ミステリ」なんでしょうか? よく分かりませんよ。
ちょっと話がそれてしまいました。さて、本作に戻って、と。
事件が解決したあとのエピローグは確かに感動ものです。ただ最近はちょっと性格がヒネくれてきたせいもあって、こういうあからさまな感動ものはちょっと、というところ。やはり言葉では簡単に表現できないような讀後感を与えてくれる小説に惹かれます。さて、ここで一言。「ジェシカ」は買いでしょうか?