自分は格別SFファンという譯でもないので、海外ものだとせいぜい讀んでもテッド・チャンとかグレック・イーガンとか、まあ要するに最近のSFの定番しか手にとってみることはありません。飜って國産のものだと、半村良、小松左京、筒井康隆など純粹SFといってはどれも微妙な立ち位置にあるものばかりに目がいってしまいます。
しかしSFもので大好きなジャンルというのははっきりしていて、パラレルワールドもの、タイムトラベルもの、ともうこの二つに尽きます。乾くるみの「リピート」はいうなれば完全にツボだったんですねえ。で、「リピート」を取り上げたときに少しだけ触れた本作は、裏表紙にもある通り、「時空は、因果律は修復可能なのか」という問いに眞っ向勝負を挑んでみせた傑作であります。
前半には公安調査庁などを絡めて陰謀劇とアクションドラマをみせ、物語の世界觀があきらかになった後半は、多重世界を凄まじいスピードで活写し、怒濤の展開を見せる。
第二次大戦下のドイツ、旧字體で書かれた「時空論」など、素材も素晴らしく、「何よりも物語を描きたい」という作者の熱意が傳わってきます。このハヤカワSFシリーズ Jコレクションって、「グラン・ヴァカンス」に言及しているひとはよく見かけるのですけど、本作について触れている人はあまりいないのがちょっと悲しい