ハズレのないレーベル、ミステリーYA!の中でも個人的に本作、山田氏の「雨の恐竜」、牧野氏の「水銀奇譚」と並ぶお気に入りとなりそうです。物語のヒロインは二人いて、新米の美人教師と、その教え子のイケメンボーイの従兄妹である娘っ子。で、この二人のシーンが平行して語られていく譯ですけど、本作の場合、學生だけじゃなくて美人教師の視點からの語りが大胆にフィーチャーされているところが自分のようなオジサンにはツボで、ここに美人教師とイケメンボーイの教え子のとの禁断の愛をほのめかしながら物語が進んでいくところも堪りません。
美人教師の元カレはどうやら何者かに殺されたらしく事件は迷宮入り、というミステリとしての謎が冒頭に提示されるものの、この謎は脇に退けられたまま物語が進んでいくという結構は「ママの友達」と同じです。それでも美人教師の視點だけではなく、従兄妹のイケメン君にホの字の娘っ子がモジモジしている場面も平行して語られていくという構成のゆえか、それでも不思議と不満は感じません。
件の殺人事件の謎はスッカリ失念したまま、「ユアボイス」というタイトルにもある通りに、殺された元カレの声とイケメン君との声がソックリというところから、美人教師はこのボーイに急速に惹かれていくのですけど、ここからボーイが持っているある特殊な能力をキーにして後半は殺人事件の真相へと近づいていくという展開です。
上にも述べた通り、この殺人事件の真相を推理していくというミステリ的な結構が物語の中心を占めている譯ではないとはいえ、それでも娘っ子のパパや、パパの一生懸命な姿を見て警察官になることを志すボーイソプラノの男の子や、さらにはイケメンの従兄妹が自分の進むべき将来を見いだしていくなか、いったい自分は何なんだろという青春小説らしい焦燥感をシッカリと添えて、娘っ子の内面を描き出している風格は秀逸です。
また、中心となって物語を牽引していく美人教師、娘っ子、そしてイケメンボーイといった主要キャラだけではなく、ホンの少しだけ語られるある画家の逸話や、殺人事件に関連して元カレの墓に姿を見せた謎女や、この女性の知り合いとなるある人物など、脇を固めるキャラの造詣も印象に残り、そもそもがミステリ的な謎が冒頭に提示されていたことさえ讀み進めているうちに忘れてしまいましたよ。
美人教師とイケメンの教え子との禁断の愛、というところから、作中でも松嶋菜々子のドラマを妄想して悶々としてしまうところなどもシッカリと描かれているところもツボで、教師とイケメン君が教室の中で二人きりとなり、その超能力で先生のプライベートをアレしてしまう場面ではグフグフ笑いが止まりませんでした(爆)。このまま二人はどうなっちゃうんだろうなア、と期待しながら頁をめくる手がとまらなかったとはいえ、……まア、この結末は皆さんで確かめていただきたいと思います。
そして美人教師をヒロインの一人として彼女の内面をジックリと描き出していく一方、ちょっと斜めに構えたキャラであるボーイの内心がハッキリとは描かれないという対比がまた美人先生の悶々ぶりをより高めている構成もたまりません。
で、冒頭に提示された殺人事件の真相は、中盤あたりでおおよそこんなものじゃないかなア、という予想とドンピシャだったのですけど、ここにボーイの特殊能力を絡めて解明していくというアイディアもまたこちらの期待を裏切りれなかったとはいえ、しかしこの中でまさか先生がこんな突飛な行動に出るとは考えていなかったのでちょっと吃驚。
新津氏があとがきに書かれている通り、どのキャラの視點から讀み進めていっても愉しめるかと思います。個人的にはどのキャラというわけではなく、イケメンの教え子に惹かれていく美人教師をグフグフと覗き見しながらその悶々ぶりとさりげなく添えられたエロっぽさを存分に堪能させていただいた次第なのですけど、このシリーズのメインターゲットとなるであろう若い世代の方であれば、やはりもう一人のヒロインである従兄妹の娘っ子に感情移入して、この青春小説ならでは焦燥感やイケメンのいとこが好きすき大好きという恋愛小説の風格を愉しむのが吉、でしょう。
本作もミステリーYA!レーベルならではの、独特のカラーを感じさせる上質な一冊で、ミステリとしての風格は薄味ながら、色々な愉しみ方が出来るのではないでしょうか。オススメ、です。