「窓のあちら側」に「押川春浪回想譚」と、何だか今年はもの凄い勢いでリリースされている出版芸術社のふしぎ文学館シリーズの最新作。キワモノマニア的には「らしくない」少女漫画フウのジャケがアレながら、内容の方は紛うことなきキワモノぶりで、愉しむことが出來ました。
英國昔話の体裁をとりながら、まさに「ふしぎ」な話で魅せてくれる短編がズラリと収録されていて、HGのアノ小説に出てくるアノ人の子孫が怪しい本を讀んだばかりにバットトリップの奈落に落ちる「血脈」、社會の底辺に屯するダメ男たちが下水道で見つけた怪しい神様の正体とは「下水道」、芝居好きの娼婦の恍惚體驗を綴る「新人審査」。
フランケンネタにあと二つの妙味を添えた人造少女の美しい怪奇譚「人造令嬢」、ボクちゃんが怪しいブツの魅力にとらわれていくプロセスを「家政婦は見た!」の筆致で描き出した恐怖譚「貯金箱」、ジャック・ザ・リッパーの来歴が意外な真相によって明らかにされる「凶刃」、活人画の大衆娘に惚れ込んだ奈落紳士のお話「活人画」。
田舎モンが火星人の襲来を食い止めた脱力の手法とは「火星人秘録」、マリー・セレスト号の謎が一人の男の不思議な力によって明らかにされる「遺棄船」、バネ足男の正体からもう一人の暗黒ヒーローの生誕を描き出した「怪人撥条足男」、蔵書マニアの秘密にグロ風味を添えた「愛書家倶楽部」、そしてネス湖に観光旅行としゃれ込んだ文学乙女が奈落に落ちる表題作「首吊少女亭」の全十二編。
いずれもキワモノとしての強度は薄味でちょっとしたふしぎ話といった体裁で、そのソツのない展開と期待通りのオチはビギナー向けを思わせるものの、ふしぎ文学館マニア的にはそのソツのない構成で纏めあげる技法を堪能するべきかもしれません。
個人的にツボだったのは、やはり複数のネタを添えて魅せてくれる「人造令嬢」で、博士が連れている美少女の正体が実はフランケン、とこのあたりのネタはタイトルからも予想出來るものながら、本作ではここへさらにあと二つのネタを組み込んでいるところが秀逸です。
美少女がフランケンと分かっていても、どうにもその美しさに惚れてしまった主人公が、世間を賑わせている奇怪な事件の真相を探ろうとするのだが、……という話。「怪物」がフランケン美少女ではなくて實は、というひっくり返しかたが鬱っぽい幕引きを引き立てているところも好印象。
ぞっとする話であれば、「貯金箱」がオススメで、親からもらった不思議な仕掛けの貯金箱に超夢中なボーイは、夜な夜なその仕掛けを見たくてお金をチャリンチャリンと入れている様子。しかしある夜、語り手の乳母がその現場を目撃したところ、……と個人的にはこの展開であれば、少年が奈落に落ちることは予想できつつも、まさかこっちからそれを描きますか、というおぞましさがステキでした。
英国ネタの真相は、というところにひねったオチを添えている短編も多く、この中では切り裂きジャックを取り上げた「凶刃」が、殺人の連鎖から語り手の転換によってホラー映画っぽい「続く」というオチで決めてくれる佳作で、一方の切り裂きジャックと同様、怪人ものでは「怪人撥条足男」もなかなかの出来映えで、こちらでは最後にある者の生誕を描いて幕とするところが洒落ています。
社會の底辺の馬鹿男どもが脱力のネタで魅せてくれるのが、「下水道」と「火星人秘録」で、語りの田舎臭さと阿呆らしさが際だっているのは「火星人秘録」の方。ここにもHGネタのアレを添えつつ、火星人撃退の真相が後日談的に語られるのですけど、この阿呆らしさと脱力ぶりでは今少しパンチに欠けるような氣もまたなきにしもあらず。
一方の「下水道」では、ダメ男どもが下水道でブツをあさっていたところ、未知の生命体がドブ川を塒にしているところを發見、連中はこの物体を神様と崇めてあるものをあるものへと変換する術を見つけ出すものの、ゲス野郎同士の内輪揉めから最後には期待通りのオチへと繋がります。
表題作である「首吊少女亭」だけは他の作品とはやや趣を異にする一編で、日本からやってきた文學志向の娘っ子がイケメンのツアーガイドと二人きりでネス湖へとドライブを敢行。前半はネス湖見物のシーンが旅情ミステリ風に流れるばかりで辟易とさせられるものの、このあと酒工場を訪問したところから、こちらの期待通りの奈落行へ雪崩込むという展開です。タイトルに絡めたワル野郎の目論見とこれまた相棒が最後の最後にノコノコとやってきた娘を地獄に突き落とすラストシーンはB級ホラーの風格で、ニヤニヤしたいところでしょう。
「押川春浪回想譚」に比較するとややパンチに欠けるところが個人的にはアレながら、ふしぎ文学館というシリーズの期待は決して裏切らない質の高さでシッカリと一冊に纏めてあるところは好印象。今年はまだまだリリース予定があるのかどうか、あるとすればいったいどの作家なのかと、怒濤の勢いをみせる出版芸術社には今後も大期待してしまうのでありました。