様々な事件や事象が複雑に入り乱れながら犯罪曼荼羅を描き出していく「女囮捜査官〈2〉視覚」に比較すると、誘拐事件の現在とその伏線となる自殺事件の過去を交錯させるという構成をとりつつも、物語の進み方は直線的に感じられます。もっとも本作の大きなテーマが現代本格のキモともいえるアレである故、立ち上がる謎や事件の數々には犯人の意図(糸)がくまなく張り巡らされている譯でそれも道理、でしょうか。
前作「視覚」で、電動ノコギリを振り回して襲いかかってきた十三日金のキ印野郞を処刑したトラウマから疲れてしまったヒロインが、本作では多重人格の疑いアリ、ということになって、山田ミステリの十八番ともいえるアイデンティティの不安を前面に押し出しつつ、世界最小の密室といった賣り文句も掲げて、物語は誘拐事件とその背後に見え隠れする不可解な自殺事件などを織り交ぜて進みます。
ノッケから身代金受け渡しにヒロインがご指名されてしまったりとスリリングな展開で見せてくれるサービスぶりが素晴らしく、舞台を過去に戻して前作からの延長線上にヒロインの苦悩を描いてみせるところにも抜かりはありません。このヒロインのトラウマが本作では存在しない妹という奇妙なモチーフとともにジックリと描かれていくのですけど、ここにトラウマと苦悩をヒロインの側から描いているところが秀逸です。
トラウマを抱えて精神崩壊の危機にあるヒロインの視點から、自殺事件とこの背後關係を追いかけていくからこそ、舞台が再び現代の誘拐事件に戻ってきた時に、この現代本格のテーマが明確な形をもって立ち上ってくるわけで、このあたりの構成もうまさは流石です。
ただ、各々の登場人物の意図が交錯して進む前昨に比較すると、犯人の意図があまりに明確であるがために、早い段階で犯人が誰かは分かってしまうところが缺點かな、とも思えるものの、それでも誘拐事件の動機や、ヒロインをアレする為に様々な小技を凝らしてアレしているところが最後に明らかにされるところにはもう吃驚。
特に誘拐事件の動機の転倒ぶりは壮絶で、これがためにここまでやるか、という犯人の狂氣が炸裂する後半部には大満足、實際のところは中盤の推理部分も少なく、後半の眞相開示についても推理というよりは殆ど独白に近い構成ながら、本作ではヒロインのアイデンティティ崩壊に存在しない妹という絡みを添えているゆえ、モノローグめいた告白から犯人が明らかにされる展開もアリでしょう。
誘拐事件における身代金の受け渡しのシーンでも見せ場は多く、喉が痛くて調子も悪く、さらには精神崩壊寸前でフラフラだというのに、身代金の受け渡しに犯人からご指名されてしまったヒロインの受難も見所で、特にクライマックスでは、船の上でエロっぽいボディコンスーツを着せられるという罰ゲームを大敢行。
「肌にぴったりと密着したボディコンスーツ」で、「しかも下着が透けるような白、ノースリーブで、胸もとが大胆にえぐれている。もちろん、ポケットなんかついているはずがない」という格好でストッキングもはかずに、汗をかけば肌はスケスケ、さらにはこのスタイルでバイクに乘せてやろうかとまさにやりたい放題。
さりげなく自慰シーンもあったりと、エロという點では前作よりもボルテージを挙げているところもキワモノマニア的には好印象で、サスペンスとエロ、そして現代本格の技巧を融合させながら、「サイコトパス」や「カオスコープ」「翼とざして アリスの国の不思議」などにも通じる山田ミステリらしい風格を添えた傑作といえるのではないでしょうか、というかこのシリーズはどれもハズレなしで、前二作がツボだった人は本作も大いに愉しめると思います。