検閲官前奏曲。
メフィスト賞受賞作にして、城シリーズ(っていうの?)の第一彈という譯で、恒例の大物理トリックの方はおとなしめながら、物語の為に作り込まれた世界観やキワモノガジェットが獨特で、十一人委員会だの< 真夜中の鍵>だの、讀了した後もシックリこない大風呂敷ぶりがアレとはいえ、トリックの為に物語世界を構築するという発想とファンタジーめいた風格は北山氏の最新作「少年検閲官」にも通じるように感じられました。
物語はもうすぐ終わってしまう世界を舞台に、ボウガン探偵と譯ありっぽいパートナーの女性が、スキップマンという怪物退治にクロック城を訪れるやコロシが發生、顔が壁に浮き出してくるという怪異や、過去と現在、未來の時間を刻んだ奇天烈時計など、いかにも怪しいアイテムが行き着く暇もなく繰り出される前半部からイッキに引き込まれます。
スキップマンなる、幽靈だか怪物だか幻覺なのだか判然としないブツの存在も個性的ながら、本作では世界の終焉という設定をテコに、電磁波やこれまたよく分からない十一人委員会だののやや意味不明なネタをブチ込んだ風格が個性的。モントークだのフィラデルフィア計畫だのといったキワモノには定番のアレも仕込んで、どこまでが本氣なのだがこれまたよく分からないところが堪りません。
肝心のコロシは北山ミステリでは定番の首切り。城の住人は犯行時刻にコロシの現場へと移動することはとうてい不可能という状況が提示され、果たして犯人はどのようなトリックを使って城の中を移動したのか、というところがキモ。
ただ實をいうと、この城の造詣があまりに奇天烈に過ぎる故、かなりの讀者がこのネタを途中で見拔いてしまうのではないでしょうか。実際自分も大體これじゃないかなア、なんて見當を付けながら讀み進めていったら、後半の推理でその通りの内容が開陳されたのにはやや唖然としてしまったのですけど、勿論これだけでは終わりません。
袋綴じになっている後半部分が結構な分量で、二つの首切りにこの頁數を費やして怒濤の推理が語られるのかと期待してしまうのですけど、探偵の推理によってコロシの方法と犯人は存外にアッサリと明かされてしまいます。
しかしその後に展開される怒濤のどんでん返しが心地よく、特に首切りの動機については當に唖然、本作の獨特の世界観に絡めた仕掛けの巧妙さは、これまた「少年検閲官」にも通じるのでは、なんて思うのですが如何でしょう。
確かに「瑠璃城」や「ギロチン城」などに比較すると、物理トリックの祭典は控えめで、死体遊びの激しさについてもアッサリ氣味ということもあって、城シリーズでのやりすぎぶりを期待してしまうとやや肩透かしを喰らってしまうかもしれません。
もっともこれが第一作ということを考えれば、……というか北山氏の作品をリアルタイムで追い掛けている讀者は、本作の奇天烈な世界観と物理トリックの融合に驚き、そのあとの「瑠璃城」や「アリス・ミラー城」、「ギロチン城」とますますエスカレートしていく大物理トリックのやり過ぎ振りを愉しんだに違いなく、やはり城シリーズは本作から取りかかり、リリース順に讀み進めていった方が純粋に一作一作の趣向を堪能出來るのかもしれません。
個人的には上にも述べたように、物語世界の造りこみや、個性的な舞台設定において提示される奇天烈なトリックとの見事な融合に「少年検閲官」にも通じる風格が感じられたところがツボで、自分のように「少年検閲官」で北山氏にハマった方は、その次の一册として、本作を手に取られるといいかもしれません。
物語世界にもシリーズものの展開を前提とした造りこみをシッカリと行い、キャラの造詣もより魅力的に磨き上げた「少年検閲官」の方が小説としての完成度が高いことはその通りなのですけど、本作でも本格ミステリの中における「探偵」の立ち位置にこだわりまくる北山氏の風格が早くも感じられるところや、常軌を逸した動機がそのまま物語の世界観と見事な連關を見せている仕込みなど、既に北山氏らしい個性が十分に感じられるところも好印象。
世界の終わりや奇天烈委員会など、物語の舞台をやや説明口調で流してしまうところなどにやや堅さは感じられるとはいえ、モントークプロジェクトなどのトンデモとナルコレプシーなどの醫學知識を分け隔て無く竝べてみせることによって、作中のやや歪な世界を提示してみせるところも非常に面白く、いかにもメフィスト賞らしい、という印象を持ちました。
「ギロチン城」や「アリス・ミラー城」がコロシの舞台となる世界そのものにはリアルを感じられたのと異なり、本作で描かれる世界は城シリーズとはいえ、寧ろファンタジーに接近した「少年検閲官」の系列に近いのではないでしょうか。
後半の怒濤の展開で物語のキモとなった世界の終わりや委員会なども絡んではくるとはいえ、やや消化不良で終わってしまったような氣がするものの、もしかして北山氏は本作をシリーズものにする構想を持っていたのでは、なんて勘ぐりをしてしまいます。
實際のところはどうなのかなア、なんて考えてみるものの、「瑠璃城」のスノウウィとか「アリス・ミラー城」の入瀬などの魅力的なキャラも平気で使い捨ててしまうような剛気な北山氏のこと、全然そんなことは考えていなかったのカモしれません。
メフィスト賞らしいトンデモぶりも愉しめるとはいえ、モントークやフィラデルフィアなどの定番ものゆえ、ハジけまくったキワモノぶりに過剩な期待はせず、寧ろその奇天烈な世界観を軸にした仕掛けを堪能するのが吉、でしょう。個人的には「少年検閲官」で北山ワールドにハマった自分のような本讀みがその次に手に取るべき一册、としてオススメしたいと思います。