以前單行本で購入濟の筈なのだけども本棚の何處にしまったのか記憶にないので、ブックオフで100円で賣られていたこともあって集英社文庫版を手に入れる。
解説が千街晶之というのが良い。後ろを見ると、單行本が出たのは1997年。もう結構昔の話なのだなあ、と思う。
ただ「恋文」以後だったせいか、あまりこの短編集が当時話題になったという記憶がない。実際千街晶之も解説で、「それにしても、連城の近作に対するミステリ界の注目度は、少し低すぎるのではないかと思う」と書いている。
この短編集で何といってもキているのは「喜劇女優」でしょう。派手な殺人事件も起きない、複数の男女が入り亂れた恋愛話なのだけども、登場人物全員が消えてしまうという物語。彼の作品によく見られる傾向はこの作品でも踏襲されています。男女、戀敵、姉妹、という關係が登場人物の独白のなかで、反転を繰り返しながら、事実が次々と否定されていく。
実は連城の小説から暫く離れていた時期があって、再び彼の小説を手にしたのは、長編の「牝牛の柔らかな肉」でした。「暗色コメディ」などの初期長編の頃からの、作風の変化にまず驚き、續いて、ああ、長編で事件を書いていくのにこういう手法もあるのだなあ、と感歎しました。
で、この「喜劇女優」は、千街晶之が解説でも述べているとおり、この長編の手法を短編で使ったというもので、一読しただけでは何が何だか分からず、頭の悪い自分は數回讀み直して、やっと物語の展開が把握できたという代物。
これほど凝った構成でなくても、例えば「砂遊び」などもこの事実の反転を愉しめる一作。「他人たち」も同じ。また初期短編集のような風合いの「夜の二乗」も素晴らしい。
「夜よ鼠たちのために」のような初期短編集を氣に入っている人だったらマストな作品といえるでしょう。