リーマン仕事以上に台湾のブツに集中するため、こちらのブログはすっかりご無沙汰でふありました。ようやく一段落ついたので久しぶりに更新してみます。で、復帰第一弾のブツは石持氏の新作。ジャケ帯にも「逃げろ、知力と体力の限りを尽くして」とある通りに、日常の謎や事件の解決を指向したロジックを前面に押し出して石持ワールドならではの歪みが横溢した作風とは異なり、一番近い旧作はというとまずパッと思い浮かぶのが『カーディアン』でしょうか。
あらすじを簡単にまとめると、閉鎖確定の図書館に忍び込んだいい歳の野郎どもと、訳アリの娘っ子たちが夜の図書館でランデヴ-。しかしそんな彼らを奇天烈なラジコンヘリが襲う。果たしてラジコンを「ビィイーン」と操る輩は何者なのか、そしてその目的は、――という話。
一応、石持ミステリということで、ラジコンを操る輩は何者なのかというフーダニットや、その動機のホワイダニットなど、謎らしい謎は添えられているものの、そうした本格ミステリでは定期の謎を大きく前面に押し出すことはなく、むしろ謎めいたラジコンマニアと、野人ともいえる剛毅な男と娘ッ子たちの頭脳戦と肉体戦を、石持ワールドならではの推理プロセスを用いて活写した展開が秀逸です。
また、『ガーディアン』に近い風格で、さらには娘ッ子が大変な事態に巻き込まれるとなれば、氏の熱狂的ファンであれば当然期待してしまうのがエロ。こちらについてはノッケから、
恐怖におののく若い女性。
想像したら、股間が熱くなってきた。いけない。こんなことでは、本番で操縦を誤るかもしれない。今のうちに処理しておこう。生身の女性に触れる勇気はなくても、決して性欲がないわけではないのだ。
と『耳をふさいで夜を走る』から石持ワールドのウリとなったネッチリとしたリアリズム溢れるエロティシズムで読者のハートをガッシリと・拙みつつ、冒頭、いきなり「ビィイーン――」と「モーターの音」を響かせて登場するモンから読者に妙なものを想像させて「股間を熱く」させてしまう誤導を凝らしてみせるという、ミスディレクションを「違った意味」で使用してみせる技法が、上にも引用した「本番」という言葉に表出されていることに注目でしょうか。
またリアルなエロという点で人間の生理を多分に意識したディテールにおいては、エッチをしたあとも、同じペットボトルの水は飲まない男と娘っ子というシーン(167p)によって、二人はあくまで下半身を擦り合わせるだけの関係で、間接とはいえ恋愛要素が想起されてしまうキスはしないという歪さを描いてみせるところは、様々なキスの技巧によって恋人に対する心の惑いを活写した『君がいなくても平気』にも通じます。
『君がいなくても平気』でも「あ、ん、は、激しいっ」「も、もうっ」という名台詞が添えられていたのと同様、本作でも、
……股間のものが、立ち上がっていた。自分でもよくわからないうなり声をあげて、……小柄な肢体をベッドに押し倒す。バスタオルをむしり取ると、形のいい乳房が転がり出た。夢中で貪る。
「あん」
彼女が楽しげな声を上げた。
体制を入れ替え、彼女が上になった。
奔放に動く彼女は、勝ち誇ったような顔をしていた。
ツインテールの髪を揺らしながら。
ツインテールの女の子女の子した童顔っぽい娘が、中年男を相手に乳房をしゃぶられて「あん」と声をあげるなど、……いったい、こうした喘ぎ声とかツインテールで女性上位とかは何が「ネタ元」なのかと気になってしまうわけですが、本格ミステリに恋愛要素など無用ッなどといかめしい顔で嘯いていながら内心は「曾我佳城女王様の足下に跪きたいッ!」「風呂出亜久子タンのお臍ペロペロ」なんて妄想しているロートルマニアはもとより、ツインテールという萌え要素を添えることで、つい最近ミステリデビューしたなんていう童貞君をも射程に入れた本作のエロスは、石持ミステリのビギナーでもどん引きすることなく、案外すんなりと受け入れることができるのではないでしょうか。
そうしたエロティシズムが最近の石持ミステリのファンにとってはもっとも期待されている要素のひとつであることはもちろんながら、やはり石持氏といえば、物語を盛り上げてみせる精緻なロジックでありまして、本作では、次第に明らかにされていくラジコンヘリという「凶器」の攻撃方法をロジックによって精査し、次なる攻撃を推理してみせる技法や、ヘリの音から標的となった野蛮人や娘っ子たちが攻撃をかわしてみせると悟るや、さらにその裏をかくように犯人が新たな方法を用いてみせたりといった丁々発止のやりとりが、サスペンスの風味をいや増していく展開が素晴らしい。
「犯人」や、事件の構図についてはむしろ読者はすべてお見通しで、被害者と探偵だけが知らないという状況でありながら、「探偵」が最後に見せるオトシマエの付け方は恋愛要素を絡めているとはいえやはり異様。この幕引きからムンムンと匂いたつ違和感と歪みは紛れもなく石持ミステリのソレで、エロスでは広範な読者の欲望を満たしつつも、事件の「解決」というミステリの幕引きについては読者に何ら阿ることなく、倫理がおかしいやはりヘンという外野の声などどこ吹く風で、飄々と我が道を行く石持氏の様式美に「こうでなくちゃ」と喝采を送るか、ツインテールの娘ッ子が女性上位で喘いでいるシーンに股間を熱くさせつつも「いや、これ、やっぱりおかしいよ」などとマジメ腐った批判をしてみせるか、――そのあたりで石持ミステリに対する心酔度が判るような気がするのですが、いかがでしょう。
ロジックは事件の解決に使ってナンボという凝り固まった思考に毒されることなく、サスペンスを盛り上げる一手法としてロジックを用いた風格は、シッカリと添えられた娘っ子のエロスとともに『ガーディアン』が愉しめた読者には、大いにオススメできる一冊といえるのではないでしょうか。