リレー小説だけれども短編というところがミソで、例えば本格ミステリ寄りにおけるリレー小説の怪作にして傑作である「堕天使殺人事件」などとは違い、やり過ぎでハッチャけたお遊びは皆無。それぞれの作家が持ち味を存分に生かして綺麗にまとめた短編を取りそろえたという一冊ながら、やはりリレーという趣向に目をやって、その連關の技巧を愉しみたいところです。
それぞれのあらすじは敢えて割愛するとして、簡単に「お題」だけを並べておくと、北村氏から引き継いだ法月氏が「猫」、殊能氏が「コウモリ」、鳥飼氏が「芸人」、麻耶氏が「スコッチ」、竹本氏が「蜻蛉」、貫井氏が「飛び石」、歌野氏が「一千万」、トリを飾る辻村嬢が「サクラ」となっています。
「くしゅん」で見せた北村氏の猫ネタが辻村嬢の「さくら日和」で最後に美しき連關を見せるという纏め方がまず秀逸。一方、そうした最初と最後の繋がりとは対照的に、中盤の「コウモリ」から「芸人」へと飛躍するところのカオスや、「飛び石」から「一千万円」というバトンがミステリとしての極上の味を醸し出しているところなど、なかなか見所の多い一冊となっているところもいい。
リレー小説としての「引き継ぎ」に目をやると、うまいな、と思ったのが殊能氏のブッ飛んだ作風をしっかりと自分のキャラに取り込んでブラックな短編へと仕上げてみせた鳥飼氏の「ブラックジョーク」。殊能氏のキャラもこの物語世界に取り込まれると何だかありえるようにも思えてくるのが摩訶不思議なら、フツーの「ちょっと泣ける」話に転じていくのかと思っていたら、思わぬ「事実」が思わぬところで明かされてオチとなる結構も素晴らしい。
鳥飼氏の物語世界と設定をしっかりと引き継いで手堅くまとめた麻耶氏の「バッド・テイスト」から竹本氏への繋がりにはやや物足りなさを感じるものの、その後に続く貫井氏の「帳尻」から歌野氏「母ちゃん、おれだよ、おれおれ」へと繋がるところは本作中、最大の見所といっても良いくらいの連携が光ります。
大金を盗まれる、家族がひどいことになった男の悲惨話を軽めのテイストで流してしっかりと着地させた「帳尻」から、何ともな話を展開させた「母ちゃん……」のハジけぶりが素晴らしい。「帳尻」の語り手である「おれ」には見えていなかったところから思わぬ事件を端緒に脇役が激しい演技を見せるという逸品で、ひねりを加えた黒いオチも「帳尻」の幕引きと合わせる形でシッカリと決めているところも面白い。
こうしたブラックさ、軽さの風格から最後はどう落ち着くのかと思っていると、辻村嬢の「さくら日和」は、最初の北村氏の猫ネタも絡め、最後にはしっかりとバトンを手渡す趣向まで添えてみせるという幕引きが心憎い。
ミステリ的に見れば、現代本格では手番ともいえるあるネタを用いて、語り手の母親が語ってみせた「サクラ」の意味にちょっとした仕掛けを凝らしい、引き寄せるものにささやかな誤導を凝らしつつヒロインの心の綾を綺麗に描き出している結構が素晴らしい。
勿論、こうしたミステリ的な技巧面から本作を讀み解くのも一興ながら、個人的には、冒頭で北村氏が紡ぎ出した空気感を継承して次なるバトンの行く先を定めてみせたラスト四行のうまさに感心至極。
またリレー小説といえば、後書きも見逃せない譯ですが、今回はトリをつとめた辻村嬢から始まっているのが面白いと感じました。リレーの第一走者であった北村氏が、辻村嬢の見事な技巧にこたえるかたちで後書きを決めているところも、一冊のリレー短編集として非常にうまくまとまっているように感じられるところも好印象、――というわけで、個性的な作家の短編を取りそろえながら、辻村嬢の華麗なる技巧によって癒やしの一冊へと昇華された本作、個人的には北村辻村両氏の隠れた連携プレーがツボだったのですけれど、殊能氏の新作が読める!というだけでも買いの一冊という方もいるのではないでしょうか。