最高ッ。狂気とグロと不条理と超絶論理がないまぜになって強度の捻れを引き起こし、やがては世界が反轉とするという素晴らしい結構がキモの一冊で、キワモノマニアにはもう堪りません。
収録作はキモチ悪いグロ満載の奇天烈博物館へと紛れ込んだ男が狂気の世界へと足を踏み入れることになる「プロローグ」、イジメと狂気にウップオエップに過ぎるグロシーンを最大級にブチ込んで不条理世界を現出させた「透明女」、幽霊がフツーにいる世界において小林流奇天烈独我論に貫かれた恐怖を活写した「ホロ」、人間は不完全、人形こそ完全ナリという狂気の理論を起点にして少し不思議フウのオチを見事にキメてみせる「少女、あるいは自動人形」。
間違い誘拐から大人対コマッしゃくれた子供の激闘を描きつつ、それがおぞましい狂気へと變容する「攫われて」、忌まわしい記憶の真相を巡って野郎どもが辿り着いたトンデモなオチがタイトルを見事に表している「釣り人」、怪獸大決戦にユーモアの脱力を散りばめた「SRP」、悪友のトンデモな戲れ言が狂気へと轉じる過程がイヤっぽさを引き起こす「十番星」、ロボットがすべてを行っている悪夢の世界に抗った男の一生が壯大な世界の反轉を見せる傑作「造られしもの」、田舍村にやってきた男と宗教バカとの屁理屈バトルがやがて壮絶な狂気を明らかにする「悪魔の不在証明」、「エピローグ」の全十一編。
「プロローグ」と「エピローグ」でそれぞれの短篇を括ってみせる箱的構造と、狂気の世界へとダイブする「プロローグ」の巧みさなどが、牧野氏の「忌まわしい匣」を想起させるところもツボだったりするのですけど、冒頭の「透明女」からして、グロと狂気のブチ込みブリは完全にレブリミット。
「透明女」といっても、ジェットコースター秘宝館のような物語が展開される譯ではなく、こちらは過去のイジメに記憶の曖昧さという小林ワールドならではのネタを見事に活かしたミステリ・タッチが秀逸で、猟奇殺人の背後には過去のイジメがあって、……みたいなネタの背後で、ある女の奇天烈狂気が暴れまくるという結構は完全にアッチの世界。とにかく人間を解体していく描寫のグロぶりの激しさはまさに異常としかいいようがなく、平山氏の「SINKER」が一番キモチワルイ小説だと思っていた自分でも流石に本作のエグさには吐き気を催すことしきり、後半はあまりのウップオエップぶりに流し讀みをしてしまったという素晴らしさでありますから、エグさグロさのため「だけ」にホラーを読んでるんダイ、という変態君もこの点では大滿足すること請け合いです。
しかし物語はそうしたグロだけに留まらず、狂気によってアイデンティテイが崩壞していくさまをイヤっぽい筆致で描き出した一編で、余韻にいかにもなホラー的テイストを添えた幕引きも微笑ましい。
「ホロ」もこれまた死んだ人間が「ホロ」なる幽霊みたいな存在となって、――というSF的奇想を物語世界の根底に据えつつも、やはり主題となってくるのは人間のアイデンティテイ崩壞で、小林氏らしい豪腕で世界設定を強引にそちらの方向へとドライブしていく後半の展開が秀逸です。
「少女、あるいは自動人形」は、その語りのうまさに、物語の着地點はもうこれしかないというものながら、見事に騙されてしまう一編です。クルミ割り人形というネタからロボットと人間との差違という、瀬名氏がこのネタで調理すれば相当に高尚な物語へと仕上がることが予想されるものを、B級センス溢れるグロテスクな展開へと流していくところが素晴らしい。そして物語が語り手の元へと戻されたときに明らかにされるある真相のうまさと、結構の盤石もさ含めて見事に決まった一編といえるでしょう。
「攫われて」は、以前「殺人鬼の放課後」で讀了濟みながら、あのときは乙一氏の作品の衝撃度の影に隠れてしまった印象があったものの、今回こうして一冊に纏められたなかで再読してみると、例によって例による小林ワールドならではのアイデンティティ崩壞と失われた記憶を巡る暗黒風味がイヤ味をイッパイに釀し出している展開が素晴らしい。後味の惡さというか、この後の不穩感を想起させる幕引きという点では、個人的には収録作中、隨一といえるカモしれません。
「釣り人」はかつてのSFをイメージさせるバカっぽい奇想が爆發した一編ながら、このネタを、小林氏の十八番ともいえる喪失した記憶を巡る結構で纏めてみせたところがキモ。釣り人の二人がどうしても思い出せない記憶の真相を確かめるため、再びあの日の場所を訪れるのだが、――というところから明かされるバカ過ぎる奇想がタイトルとの絶妙な連關を見せるところなど、短編小説としてのうまさも光ります。
「造られしもの」は、個人的には収録作中、一番のお氣に入りで、世の中にロボットが溢れかえったSF的世界において、どちらが奴隸でどちらが主人か、とかいう、これまた「少女、あるいは自動人形」にも通じる主題を基調にしつつ、それが最後の最後で、おぞましい世界反轉を見せるという構成が素晴らしいの一言。個人的には、主人公が妻を娶ったあたりから、これはやはりアレだろうな、というところはおおよそ予想出来るものながら、本作ではその遙か先を行く真相を明かして、物語世界を引っ繰り返してみせるとともに、最後のひとことで「少女、……」にも通底するテーマでしめくくるところも洒落ています。
「悪魔の不在証明」は、何しろキ印の造詣が素晴らし過ぎる一編で、いかにもフツーを裝った語り手が田舍にやってきて自治会長に取り入りながら地元でそれなりの地位を得るも、宗教バカの登場によってそうした彼の目論見はすべてご破算に。布教によって村人を誑かす宗教バカに論戦を挑むも、ことごとく揚げ足をとられてしまう主人公の惡あがきもステキなのですけど、最後の大逆転の結果、宗教バカが完全にアッチの世界に行ってしまった時の描寫がキワモノマニア的には最高にツボでした。
「い――――ひひー!」「知るけっ!」「俺の勝手じゃ、ボケ!」という豹変ぶりにニヤニヤ笑いが止まらないのですけど、本作のイヤっぷりが明らかにされていくのはこの後で、津山三十人殺しなんてメじゃねえ、とばかりの皆殺しが大展開。最後に明かされる狂気の真相にもタイトル通りの奇天烈ロジックが爆發するところなど、これまた着地が素晴らしい一編でしょう。
という譯で、小林ワールドならではの狂気と記憶の混乱とB級テイストが大量投入された一冊で、特に今回は「脳髄工場」や「忌憶」を遙かに凌ぐウップオエップなシーンがテンコモリにされた「透明女」から本番スタートとなる構成ゆえ、このグロ満載の一編だけでもうお腹イッパイと投げ出してしまう心臟の弱い方もいるかと推察されるものの、グロはなくともネタに絡めた構成の妙を堪能できる「造られしもの」や「少女、あるいは自動人形」などの傑作秀作もシッカリと収録されているゆえ、タイトルからイメージして興味のありそうなものから拾い読みしてみるという読み方でも沒問題だと思います。
キワモノマニア的には、グロテスクと不条理と記憶の混濁と超絶論理の極北が暗黒世界への扉を開く構成がタマらない一冊ゆえ、キモチ悪いのダーイスキという小林氏のファンで、角川ホラー文庫は全部ツボだったいう方であれば文句なしに愉しめるかと思います。オススメ、でしょう。