帯に曰わく、「異形の妖獣が誘う変拍子の迷宮」。
前回取り上げた「LIVE 2004」のKBBでありますが、壷井氏といえば、自分にとってはKBBの流麗な音よりも寧ろこっちなんですねえ。
ベースの桑原氏、キーボードの荻野氏、そしてドラムの立岩氏という超強者の布陣に、壷井氏という百戰錬磨のこれまた強者を迎えてのセカンドとなる本作は、ファーストで見られたマグマ系の重厚な音壓を維持しつつも、異國風の雰圍氣をよりいっそう際だたせた、當にジャケ帯にある通りの異形の音樂。
民族音楽風の旋律と、激しい場面展開で聽くものを翻弄するその音はツァムラを髣髴とさせるものの、曲のタイトルに見られるおふざけに相反して、ツァムラのようなユーモアは希薄です。かわりに重厚なリズム隊によって奏でられるマグマ暗黒系の雰圍氣がより濃厚に極まった、當に怪作の名に相應しいアルバムではないでしょうか。
最初の「LAYA」からして、印度調出しまくりの怪しげな読唱のあと、すぐさま切り込んでくる壷井氏のバイオリンのフレーズが滅法恰好よく、ピアノと印度風のパーカッションのリズムに合わせて怪しく搖れるバイオリンの旋律が次第に速度を増していく様は緊張感拔群。KBBで見せたバイオリンの音色が薄紙をすっと切り裂く鋭利な日本刀だとしたら、こちらはさながらナイフでギリギリと切り口を刻んでいくとでもいうか。途中に入る女声のボーカルもこれまた怪しさ満点で、異國印度風、重厚リズム、怪しげなバイオリンと、本アルバムの見せ所のすべてを満たした名曲でしょう。
「絞首刑」もピアノのミニマルっぽい旋律がフェイドインしてきたあとは、ピアノとドラムの重々しいリズム合わせてにバイオリンが美しい飛翔を見せるという展開で、「LAYA」以上に緊張感を際だたせた雰圍氣がこれまた恰好いい。好きですねえ。後半、ピアノが奏でる靜の部分と、凶惡なバイオリンが暴れまくる場面が交錯する展開は、當に背筋が凍るほどの凄まじさですよ。
「異教徒/切支丹~百姓一揆」の冒頭、これから始まる不穩な展開を豫兆させる雰圍氣が、何処となくアネクドテンを髣髴とさせます。ベースが一定のリズムを維持しつつ、メロトロンっぽい音まで投入して不安を煽りたてるところから、バイオリンを主旋律に据えた爆発が起こると、あとはもう、めまぐるしく展開される場面変化に目を回すばかり。後半は同じリフの繰り返しでマグマっぽい暗黒を繰り出して終わるところが非常に明快なこれまた名曲。
「ハレルヤ」は「LAYA」と同樣、印度風を押し出した幽玄な冒頭から、リズムが入るとあとはもう、このバンドらしい怪しげな雰圍氣へと突き進みます。パーカッションも印度風、そしてバイオリンも主旋律もそれらしい音を出しているのに、普通の印度音楽からは遙かに逸脱したものに感じられるのは、恐らく尋常でない重さで強迫的なリフを繰り出すベースでしょう。後半、妙に明るい展開に轉じるところが何とも不思議。これまた名曲でしょう、というか、本作、本當にどれも素晴らしいものばかりで捨て曲っていうのがないんですよ。
「五十肩」はこれまたらしくない明るさにはっとさせられる曲なのですが、マグマ風の暗黒的な展開がないかわりに民族音楽風の尋常でない変拍子がやすみなく繰り出される曲でありまして、親しみやすい旋律にすらすらと聽けてしまうものの、これ、演奏しているメンバーはかなり辛いんじゃないんですかねえ。特に壷井氏。蹴躓くようなフックを次々と繰りだしながら、緩急自在に変じるリズムについていくバイオリン。これ、かなり大変そうですよ。
「meat powdered bones」の冒頭、トラッド風のバイオリンは前の「五十肩」と同じながら、裏で鳴っているピアノはどう聽いてもマグマ直系。リズムに徹したピアノは、重々しいリフでこちらに迫ってくるベースと完璧なユニゾンを展開します。バイオリンが歌い出す中盤、裏で唸りまくっているベースがかなりツボですねえ。後半はKBBにも似た華麗なバイオリンの應酬で、マグマ暗黒系の雰圍氣を払拭していくところが恰好いい。
「It came from……」は、現代音楽風の不安を釀し出すピアノの旋律から始まり、重々しいリズム隊に合わせて素っ頓狂なバイオリンのフレーズが飛び出します。そのあとの、レコメン系の凶惡なリズムとともにバイオリンが遠くで唸りを上げるところが相當怖い。收録曲の中では一番前衞的に聞こえますねえ。
「somewhere in time」は、エレピのミニマルな旋律がバイオリンとベースを導きながら展開される冒頭部におや、と思っていると、すぐさま最近の高円寺百景風の、複雜怪奇な変拍子フレーズが炸裂。中間部を過ぎたあたりのオルガンが主旋律を引き繼いだ後のジャズっぽいところが面白い。というのも、ジャズっぽいとはいえ、ここで鳴っているベースは單純なリズムながら、やはりマグマ系の凶惡なもの。ファーストから引き繼がれた風格はここでも健在です。
最後の「D.N.A」も「It came from……」と同樣、何処か不安を湛えたピアノが暗い雰圍氣を引き立たせながらしずしずと始まります。しかしこのまま室内楽っぽい調子で進む筈もなく、レコメン系の爆発から一転、その後は室内楽風の場面と入り替わりながら中盤の展開はバイオリンが主導します。時折入るキーボードの味つけがここではいい味を出していて、後半の激しく高低を繰り返すピアノのせわしない旋律に合わせてバイオリンが唸りまくる様も當に壓卷。
レコメン系、マグマ、メシアンなどの現代音楽系統に民族音楽風味と、奇天烈な変拍子と狂気の変転を繰り返す音楽は當に異形。狂ってる狂ってるといっても、ポチャカイテ・マルコが凄いのは、これだけ奇妙なことを演っていながら、プログレマニアにツボなフックやギミックをふんだんに鏤めつつ、さらりと聽かせてしまうことでしょう。まったく飽きさせないということもあるんですけど、一度プレイヤーに挿れてしまうと、何度でも聽いてしまう毒があるところも素晴らしい。おすすめです。